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「とりあえず落ち着こう」
長い沈黙の末、隣にいた男が痺れを切らして口を開いた。
「落ち着いて!? こんな状況で落ち着けると思う!?」
すると、その隣の女がヒステリックな声を上げ、部屋はまた重たい空気に包まれた。離れたところにはもう三人いて、女は震えながら泣き声を上げているし、その隣にいる男は深刻そうに俯いているだけだった。そして、もうひとりは……
「なぁ」
そのとき、眼鏡をかけた、いかにも根暗そうな男がぼそりと呟いた。
「ほんとに……伊藤は死んだのか?」
その問いはこだまするだけで、誰も答えようとしなかった。ネクラ男のすぐ近くにはソファーがあり、そこで男がひとり横たわっていた。
俺はそいつの顔を覗き込んだ。明らかに血の気がなく、目は固く閉じたままだった。すっかり冷たくなったそいつを見て、俺は確信した。
───こいつは俺自身だ。
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