だーれだっ?【2022改定版】

1/10
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「とりあえず落ち着こう」  長い沈黙の末、隣にいた男が痺れを切らして口を開いた。 「落ち着いて!? こんな状況で落ち着けると思う!?」  すると、その隣の女がヒステリックな声を上げ、部屋はまた重たい空気に包まれた。離れたところにはもう三人いて、女は震えながら泣き声を上げているし、その隣にいる男は深刻そうに俯いているだけだった。そして、もうひとりは…… 「なぁ」  そのとき、眼鏡をかけた、いかにも根暗そうな男がぼそりと呟いた。 「ほんとに……伊藤は死んだのか?」  その問いはこだまするだけで、誰も答えようとしなかった。ネクラ男のすぐ近くにはソファーがあり、そこで男がひとり横たわっていた。  俺はそいつの顔を覗き込んだ。明らかに血の気がなく、目は固く閉じたままだった。すっかり冷たくなったそいつを見て、俺は確信した。 ───こいつは俺自身だ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!