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「警察呼んだの……?」
しばらくして、先ほどのヒステリー女が隣にいた男に聞いた。
「あぁ。さっきこの男が」
金髪ピアスの男は、無愛想な表情でネクラ男を顎で指していた。
四人がいるのはとあるレンタルスペースで、大型のスクリーンや長めのダイニングテーブルが備え付けられており、棚にはボードゲームや漫画が詰め込められている。洒落た空間の中、唯一異様だったのは、言わずもがな死体があることだった。
───しかし、なんでこんな状態に……
俺は目の前に横たわる自分の体を眺めた。
いわゆる幽体離脱ってやつだろうが、一番厄介だったのは、なぜこのような状況になっているかはもちろん、自分が何者であるかも一切合切覚えていないことだった。
沈黙がしばらく続いた後、ネクラの口が静かに動いた。
「ひとつ、確認したいことがあるんだけど……」
「なんだよ」
キンパツは煙たそうにネクラを睨んだ。
「あっ、えっと……」
ネクラは少しビビリながらも、自分のかばんから紙を一枚を取り出した。
「これ貰った?」
俺はすかさず覗き込んだ。その紙には、次のようなことが書いてあった。
『伊藤拡送迎会への招待状
こんにちは! 突然ですが、この街を出て来月から新生活をスタートすることになりました。そこで、あなたを送迎会に招待します。会の主役が開催するなんて変な話だけど、この街を離れる前に会っておきたかったので、自分で企画することにしました。ぜひご参加ください! それと、他の友達も呼びます。初対面の人が多いと思うけど、よろしくお願いします!』
下には日時や会場など、送迎会の詳細が事細かに書いてあった。どうやら俺は自分の送別会を自分で企画して、仲の良い友人を招いたらしい。招かれたのはここにいる四名。その装いを見るに、全員大学生らしい。もちろん、俺は誰ひとり覚えていないが。
「招待状なら俺も貰った。まさかこんなことになるなんて、予想もしなかったけどな……」
キンパツはソファーで寝ている俺を見て、ため息をついた。すると、ネクラが眼鏡をくいっと上げる。
「要するに、僕たちはお互い初対面……でも共通点がある。みんな彼の友人であり、今日の送別会に招かれたゲストってわけだ」
「あぁもう! うっさいわね!」
ネクラが言い終わるとほぼ同時に、ヒステリックがまた甲高い声を上げた。
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