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「人が死んでるのよ? あんまりごちゃごちゃ言わないでくれる? こっちだって動揺してるのよ……」
ヒステリックは頭を抱えようとしたが、その瞬間に何かを思い出した様子で、すぐにその手を頭から離した。そして、隅で縮こまっているもうひとりの登場人物の元へ歩みを進めた。
「一番はじめにこの部屋に来たのってあなたよね?」
ヒステリックが詰め寄ったのは、ここまでずっと泣き続けているひ弱そうな女のところだった。
「私が来たときにはあなたと拡しかいなくて、そのときには拡はもう死んでいて……」
「違います!」
そのとき、俯いていたそいつは、勢いよく顔を上げた。
「たしかに、この部屋に最初に来たのは私ですけど、扉を開けて入ったらすでにこの状態で……」
彼女はウサギみたいに目を腫らしながら、必死に弁明した。
「だから私、拡ちゃん殺してなんか……」
「拡ちゃん?」
そのとき、ヒステリックの目が鋭く光った。
「あなた、拡とどういう関係なの?」
ヒステリックは少しだけ怒鳴った。すると、ウサギは口を震わせながら答えた。
「どうって……拡ちゃんは私の彼氏です。だから彼氏のこと殺すわけ……」
「彼氏?」
とげとげしい口調からして、また騒ぎ出すのだろうかと思われたが、ヒステリックは深く頷き、妙に落ち着いた口調を取り戻した。
「ふーん、そうか……彼氏さんだったの?」
ウサギは必死に首を縦に振った。
「そうです! 私、この近くの居酒屋でバイトしてて……拡ちゃんとはそこで知り合ってお付き合いを……」
「ちなみにさ」
ヒステリックは、不気味に微笑んだ。
「私も拡の彼女なんだけど?」
部屋の空気が一瞬でピリつく。俺は頬を伝う汗の冷たさを感じながら、息を潜めていた。
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