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「拡とは違う大学だった。けどね、彼と同じテニスサークルに所属してたの。入部してすぐ付き合って、今年で四年目。今まで何の問題もなく過ごしてきたつもりだったけど……まさか別の女を作ってたなんてね……」
次の瞬間、ヒステリックは冷たい視線をウサギに向けた。その姿を見ていると、こちらまで背筋がゾクゾクとしてきた。
たしかヒステリックはかなり独占欲が強くて、勝手に俺のスマホの中身をチェックしたり、少しストーカーチックに跡をつけて来たり……とにかく強烈だった気がする。
対してウサギは大人しく物静かで、それ故だろうが、付き合った具体的な記憶がいま全く浮かんでこない。おそらくヒステリックの印象に掻き消されているのだ。
それで……俺は全く違うタイプのふたりに惹かれて、同じ時期に付き合ったということで合ってるだろうか……?
「私、信じません……」
そのとき、ウサギは小さく呟いた。
「拡ちゃんは優しくて思いやりのある人です……だから、二股なんて……」
「何いい子ぶってんだよ、この泥棒猫」
すかさずヒステリックが言葉を遮り、更にウサギとの距離を詰めた。
「私は拡の正真正銘の彼女。あなたがそこに割り込んで来たんでしょ?」
「いや、そんなこと……」
「さっき言ったよね? "私の彼氏です"って」
ヒステリックは食うように言葉を重ねてきて、ウサギの目はまたどんどんと腫れていった。
「言いましたけど……」
「じゃあ推理してあげようか?」
すると、ヒステリックは威嚇するがごとく目を見開いた。
「あなたは最初から二股されてることに気付いていて、彼のこと憎くて殺したんでしょ? 違う?」
「そ……それを言うなら、あなたも一緒じゃないですか……」
「私はやってないの!」
これまた大きい怒鳴り声が天井を突く。
「二股してたなんて初めて聞いたし……それに、あなたが殺したとしたら全部筋が通るのよ! やってないっていうならやってないって証拠を出してみなさいよ!」
「そんな……あんまりです……」
ヒステリックからの攻撃を受けたウサギは、堪らずキュッと口を結んで俯いてしまった。
俺は、改めて死んだ自分の顔を覗き込んだ。自分で言うのもなんだが、たしかに顔は整っている方かもしれない。
それで確信した。俺は、ふたりの女に愛されてしまった罪な男なのだと。不運だったのはその愛が大きすぎたこと。どちらかは分からないが、そいつは事前に俺が二股をかけていることを知っていて、そこに腹を立てて殺しに走ったということではないか?
俺は、推理小説に出てくる探偵にでもなった気分で顎の下を触った。
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