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夏目を追う
約束の日、先輩から『都合が悪くなった』と連絡が来て暇になる。一人でいても、ろくな事考えないしなと思いながら飲み会があったのを思い出した。一人くらい増えても大丈夫だろう、小島から聞いていた場所に足を運んだ。
「あっれー!?久喜っ!お前、今日来ない筈じゃなかったのかよ!」
大きな楽しそうな声に迎えられて気分が良くなる。ここに座れだの、待ってたぜだの言われてご機嫌で座った時に夏目の姿が目に入った。こっちを見てる、目が合った。
隣りに仲良さ気に座っている女、彼女かよ。
来てたのかよ夏目、お前がこんな飲み会に来るなんて珍しいじゃん、彼女に誘われたのか?一気に俺は不機嫌になった。
しかも夏目が微笑んだ。
何だよ、余裕見せてんのか? 彼女、大胆じゃねぇか、夏目の腕にしっかり絡みついて見せつけてんのか? ああ、嫌なもん見ちまった、そう思った時に誰かに腕を引っ張られて席を移動した。
「まぁまぁ飲めよ、久喜ぃ〜」
ご機嫌だな、お前、俺とは雲泥の差だわ、と思ってまた夏目の方に目を遣ると、夏目がいなくて彼女が隣りのヤツと楽しそうに飲んで喋っていた。
「夏目はっ!?」
「あ?帰ったみたいだぜ」
誰かの声を聞き、急いで立ち上がって後を追おうとした時、
「久喜、お前さぁ、夏目のこと、好きなの?」
揶揄う様に聞く仲間に大きな声で答えた。
「ああ!好きだわ!大好きだわ!」
一瞬、場がしんと静まり返ったがそんなこと俺には関係ない、夏目を追うため部屋を出た。背中で「頑張れよー!」ヒュウーヒュウーとはやし立てる声が聞こえる。
言われなくても頑張るわ。
どっちに行った?皆目見当がつかない。賭けで川沿いに向かって走った。
いつも一緒で、メールのやり取りなんか必要なくて送った事が無いから、この時メールを送ろうなんて考えは浮かばない。
夏目、夏目どこにいる?
いるのかも分からない川沿いの道を俺はただ走った。
ベンチに座る夏目を見つけて、人生、これほど安堵した事があっただろうかと思う程にホッとして、崩れ落ちそうになった。
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