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好きだ、言ってしまう
「彼女、飲み会に置いてきたままでいいのかよ」
つまる胸を抑えて訊く。
「彼女じゃない。告白されたが断った」
「そうなのっ!?」
えっ!?何っ!?彼女じゃないって、どういう事だよ!
満面の笑みになりそうな顔を必死に堪えた。
「でも、お前の腕にしがみ付いてたじゃん」
だめだ、ニヤけてきた… 嬉しそうに訊いちまった。堪えろ、堪えろ、自分に言い聞かす。
「ああ、断ったけど、諦めないからと言われた」
「な、何だよそれ、ちゃんと断ってねぇからじゃねぇの?」
駄目だ、完全に笑みが溢れた。
「なぁ、ちゃんとはっきり断れよ」
ズンっと夏目の近くに座る場所を移動して、思わず腕を掴んだ時に振り向くモンだから、顔がめっちゃ近くなってドキッとして一瞬顔が強張る、キスしちゃうじゃん。
照れた様に視線を逸らす夏目に更にドキリとした。
「あ、ああ… 断る、ちゃんと… 」
おぼつかない返事だな。
「なんて言って断るんだよ」
気になって仕方ない、追求してやる。
「その気はない、って言うよ」
「そんなんじゃ駄目だっ!」
はぁ〜?そんな言い方、弱過ぎるだろう!もっとはっきり言わなきゃ駄目だ!
「だ、大丈夫だ、彼女だって気が変わるかも知れないし」
「変わんなかったら?」
「いや、だから… 」
「お前、強く言えないから押されて付き合う事になるかもしんねぇじゃん」
「な、ならないよ!」
いや、なる!過去にもいただろう、そうやって付き合っちまった女。絶対に駄目だ!夏目の腕を掴んでいる力が強くなる。どうしたらいい?どうしたら夏目から邪魔者を排除出来る?
「そ、そうだ!」
顔が紅潮した。
「何? 」
「俺達、付き合っちゃう?」
言った… 言ってしまった… 。
「そうだよ、それがいい!」
もうこれで押し通すしかない、俺の顔は更に熱くなって、夏目の腕に俺の指が食い込んだ。
「俺と付き合ってるって言えば、彼女も諦めるだろ?」
「そ、そうかも知れないけど、そ、そんな事言ったら久喜、お前が彼女作れなくなるじゃないか」
狼狽えている夏目がしどろもどろで返してきた。でも、嫌がってないというか、満更でもないというか、むしろアリ寄りのアリの気配を感じて、一気に気持ちが高まる。
「彼女なんていらない」
そう、夏目だけがいればいい。
「夏目、好きだ」
… とうとう、言ってしまった。
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