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2 悪戯者
「まるで、春の妖精みたいだったぞ」
うっとりとした顔で思い出を語る従兄弟の蕩けるような顔を見て、第2王子フィリップは呆れ顔で溜息を付いた。
「それほど美しいのなら、既に婚約者がいるんだろう」
「それがいないんだよ」
辺境伯の息子のデニスは肩を竦めると、机に肘をついた。
「領地近くの貴族の子息達がこぞって釣書を送ったが、全て送り返されたらしいけどな」
「やはり婚約者がいるんじゃないか?」
王子はバカにした様に彼の顔を見ながら笑う。
「うう~ん、それが返事には約束があって、20歳までは婚姻できないと書いてあったそうだ」
「約束?」
「彼らの領地にある森の中に住む賢者との約束らしい」
それを聞いた第2王子フィリップは首を傾げた。
「賢者との約束? 何だそれは」
「昔、幼かった頃に彼女が死にかけた時に命を繋げてもらったらしい。その時の約束を固く守っているらしいな」
「ほう」
王子は、美しい顔を顰めた。
「命を失いかけた時の約束か。我が国にそれ程力のある賢者がいたのか」
「まあな。隣国との境にあるでかい森の中に住んでるらしくて、どっちの国かっていうのは俺には分からんがな」
「デニス、その女性見に行くぞ」
「おい、そんなに急に行った所で会えるわけないだろ。せめて先触れを送ってからじゃないと・・・」
「こっそり見るんなら先触れはいらんだろう?」
彼の悪戯そうな顔を見て、辺境伯の嫡男デニスは『言うんじゃなかった・・・』と後悔してこっそり溜息をついた。
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