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3 アリア・シルフィールド
早春の日差しが伯爵邸の庭を照らす中、雪を掻き分けながらしゃがみこむ美しい金の髪をした娘がいた。
彼女は赤いショールを肩に掛けただけの軽装だが長い時間同じ事をしていたのだろう、額には薄っすらと汗が浮かんでいた。
「こら、アリア! 雪で濡れるだろう」
そう、声が掛り彼女の身体がヒョイと持ち上げられる。
「キアン! いつ来たの?!」
愛おしそうに金の髪を撫でる、長身の男。
漆黒の髪にアメジストのような紫の瞳。
肌は褐色で浅黒くこの国の者ではないのが一目でわかる風貌をしているが、身なりは貴族然としていて黒に銀色の刺繍の入ったウェストコートにグレイのシンプルなトラウザーズを履いている。
白いシャツの衿元のスカーフをシュルリと引き抜き手に取ると、キアンと呼ばれた青年は雪を掻き分けていたアリアの手をグイグイ拭いた。
「まったく。風邪を引いたらどうするんだ?」
「だって、雪割草が欲しかったんですもの」
アリアはコロコロと笑いながらキアンの首に腕をまわして、軽く頭を彼に擦り付ける様にして猫のように甘える。
「雪割草などどうするんだ?」
アリアはその問いには答えず、ニッコリと微笑み
「もういいの。だってキアンが来てくれたから」
「? 其れが見つかる事と、俺がここに訪れるのが何か関係するのか?」
彼女は、キアンの逞しい腰に手を回した。
「ううん、雪割草に願掛けをするのよ。早く貴方が会いに来てくれるようにっていう」
「そんな事の為に風邪をひいたら困るだろう?! 俺はお前が望めば何時でも駆けつけるのに」
そう言って。
キアンは彼女の頭を愛おしそうに撫でた。
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