4 応接間

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4 応接間

 屋敷の中の暖かな応接間に執事がキアンを案内する。  もちろんその腕に縋り付く様にアリアがぶら下がっているのには執事も慣れっこだ。 「アリア、何歳になった?」 「18歳よ」 「その歳でそのお行儀か? 両親に咎め(とが)られんのか?」  その言葉を聞くと、少々気まずそうな顔を一瞬して咳払いをするアリア嬢。 「これは、キアンにだけなのよ。他の人にはちゃんとしてるから大丈夫なの」 「・・・そうか」  その言葉を聞き、少しだけたじろいだ後キアンも咳払いをした。  先を進む歳老いた執事の背中がちょっとだけ笑っていたように見えた。  キアンと呼ばれた青年は、伯爵家の応接間に通されると父である伯爵と握手をする。  シングルソファーにキアンが座ると、ローテーブルを挟んだ向かい側に伯爵夫妻が仲良く2人掛けのソファーに座る。  アリアはというと、いそいそとキアンの隣りにあるシングルソファーに陣取った。 「お久しぶりです、キアン殿。この季節がやっと来ましたね。貴方が来てくださるとしみじみ春が来たと感じます」  感慨深げな表情で伯爵がそう言い、婦人が微笑みながら頷く。  彼がこの屋敷に来た後でこの辺りは一気に春めいて、雪が溶けて花が蕾をつけ始めるのは例年の事なので彼らはもう慣れっこだ。  屋敷の者たちも彼の訪れが春を運んで来るのだと信じて疑わない。 「アリアはこの国の成人年齢に無事達しましたが、お約束の期限には後2年あります。しかし、辺境伯の新年のパーティーに出席して以来どうも落ち着きません」 「伯爵邸に彼女目当ての釣書が押し寄せたのだろう?」  キアンがクツクツと笑う。 「笑い事じゃないわ、キアン。お父様がお断りするのに四苦八苦してるのよ?」  アリアがむくれた顔をした。
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