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5 出会い
「いいじゃないかアリア、男にモテて」
クツクツと笑い続ける黒髪の美丈夫をアリアは睨み付ける。
「もう! そんなのどうでもいいんだから。キアンが婚約してくれたらこんなに困らないんだからねっ」
むくれた顔のアリアに向かい、肩を竦めるキアン。
「莫迦を言うな。俺は人じゃないんだ。婚約とは人の世の 為来りだろう?」
呆れたような顔のキアンに向かい
「じゃあ、早くお嫁さんにしてよ」
真っ赤に染まる顔で彼の綺麗な顔を睨むアリア。
「後2年だ。我慢しろ。もっと父や母に甘えておけ。第1その間に俺などより好きな男が現れるかもしれんぞ?」
そう言いながらアリアの金の髪を撫でるキアンを両親が眩しげに見ていた。
「そんな人絶対に出来っこないわッ」
つい膨れ面になるアリアである。
13年前。
本来ならアリア・シルフィールド伯爵令嬢という娘はこの世から去っていた。
彼女の母親はアリアを産むとき難産で命を落としかけ、それ以降子供が授からない身体になってしまった。
その為アリアは彼ら夫婦の唯一の子供だった。
流行り病に侵され衰弱していくアリアと看病で倒れてしまいそうな妻を支えながら伯爵は神に祈ったが、医者は無情にもアリアは今日明日が峠だろうと、悲痛な顔をして憔悴しきった夫婦に告げたのだ。
帰っていく医者の後ろ姿を見送りながら、伯爵は森に住むという賢者を頼る事を決めた。
森の賢者の事は領民達から聞いていたが、噂でしかないその賢者が森のどの辺りに居るのか全くもって見当が付かなかったのも理由の1つだったが、弱っていく娘と看病で憔悴仕切っている妻を置いて迷うかも知れない森に分け入るのは今迄どうしても出来なかったのだ。
しかしもう後が無いのだと思い彼は腹を括ったのである。
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