『自分迷子』

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
ところで、私は自分を探している。 ある日、自分をふいに見失ってしまい自分が迷子になったのである。 妻に、 『自分を探してくるよ』と言うと、快く了承してくれた。 途中で海があったので自分が釣れるかも知れないと思い、 釣竿を買い浮きのついた糸を垂らす。 自分が、釣れるかと思ったが、 いくら待っても雑魚さえ釣れない。 ボウズだった。 仕方なく、都電に乗り気づいたら終点にたどり着いていた。 いろんな人に聞いたが、やはり自分は誰も見たことがないという。 自分はどこに行けば会えるのだろう。 そもそも自分とはなんなのか。 それさえわからないが、 自分は確かに、昨日まではいたのである。 ところで、今日になって突然自分がいなくなったのだ。 もう一度自分について考えてみた。 するとあることがわかる。 昨日の自分は今日の自分とは違うのではないか。 昨日の自分は、確かもう少し可愛げがあって素直だった気がする。 ご承知のように1日ごとに違う自分に変わるというのが人間だ。 それはさながらサナギから蝶になるように全く違う自分に変わる。 昨日の自分は、もう必要ないのである。 明日になればまた違う自分に変わるので明日には今日の自分は必要なくなる。 あと、少しで日が暮れる。 そしたら私も明日の自分に自分の人生を託さねばならない。 老婆心ながらご忠告申し上げると、 言いたいことは尽きそうにないが、 『妻を大切に』とか、 『不摂生はするな』とか、 言いたいことは、山のようにあるが、 ひとつだけ僕は伝えて明日の自分にバトンを渡そうと思う。 それは、同じ悩みを抱えたら、 まず家の外に飛び出して、 旅に出ることをおすすめしたい。 旅に出たら、やみくもに自分を探す。 そうすると如何に自分が、 無駄なことをしているのか 気づくのだ。 しかしながら、その無駄なことが、 如何に大切かを知るのもまた この旅の醍醐味である。 さて、もう日が暮れる。 家に帰ろう。妻が今日の私を 待っている。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!