帰巣本能

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 小学生が背負ったランドセルをカタカタ鳴らし、声を弾ませながら走っていく。私は1人分の洗濯物を取り入れながら、平和な時間を噛みしめる。  1人娘の未央が家を飛び出して半年が経った。母が1人で住む私の実家に身を寄せているのは知っている。意外にもったな。息を吐くように笑った。  掃き出し窓からリビングに入り、壁にかかった鏡を見る。笑っているはずの顔は、自分でも意地悪く感じる表情だった。  高校1年生になる未央は、私が実家と、いや母親と距離を取っていることをよく思っていなかった。家を出る原因となった私とのけんかの理由もそれだった。 「おばあちゃんは70歳過ぎて一人で暮らしてるのに、全然、寄りつかないなんて冷たい。おばあちゃんはシングルマザーの先輩なんだから、ママはもっと頼ればいいのに」  母は、私への不満を孫の未央に何度もこぼしていたようだ。  確かに、未央が小学校に上がったころから、自転車で10分かからない距離にある実家には年に数回しか帰らなくなった。4年ほど前からは全く帰っていない。電話も用事がなければしない。最近、話したのは、未央が家出をして家に来ていると、母から電話があった半年前だ。そのとき私が発した言葉は「未央をよろしく」だけだったように思う。
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