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「司令官、見えました。ニコラエフ少佐です。」
幾分大きくなった声で、フィリップが報告する。
「良し、デミトリ。いいか?」
宇宙服を着たデミトリの目を見つめ、同じく宇宙服の中からモーガンが力強く告げる。デミトリも力強く頷いて、エアロックで待機した。
「司令官ニコラエフ少佐の横につけました。」
フランクリンの報告を聞き、モーガンが作業車のエアロックを開いた。外は赤い世界。嵐が近づいているのか、大気が激しく動く。
「イワン!」
デミトリがイワンに駆け寄った。モーガンも後に続く。
イワンは誰かに名を呼ばれ、驚いて振り向いた。2人の宇宙服を着た人間が自分に駆け寄ってくる。
エ?
彼らの後ろには作業車が止まっていた。
「イワン、何をしているんだ!早く基地に戻ろう!」
デミトリがイワンの腕を押さえた。
いや、私はもう、此処で死にたいのだ・・・私の事は放っておいてくれ。
心で呟く。
「イワン、どうしたんだ?君の話をゆっくり聞きたいところだが、今は時間がない。さあ、私たちと一緒に基地に帰ろう。」
この声は・・・
宇宙服の窓から見えたはしばみ色の瞳に、イワンは驚いたように立ち上がった。
指令・・・官・・?
2人に両脇を抱えられ、作業車に半ば強制的に運び込まれた。
「フランク、出してくれ。」
モーガンの声に、フランクリンは直ぐ、作業車を発車させた。周りを赤い嵐が吹き荒れている。それでもこれはまだ序の口。嵐の本体は、もう少し後ろから、自分たちを虎視眈々と狙っていた。
フランクリンは、作業車が壊れてしまうのではないかと思えるほど全速力で、基地に向った。
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