14人が本棚に入れています
本棚に追加
/340ページ
イワンとポーリー
フランクリンの背中を見送り部屋に入る。
部屋の窓から外を見ると、嵐が吹き荒れていた。
今なら・・・今此処を出れば・・・
イワンははじかれたように部屋を出た。ノロノロとエアロックに向かう。
エアロックに入り、外扉を開けようとして、手を止めた。フランクリンの言葉が頭によみがえり、呆然とそこにあった椅子に座り込んだ。
私はどうすればいい?この苦しみを終わらせるために、命を絶とうと思った。しかし・・・
「君がしたことを否定すれば、君と一緒に来たロシア兵全部を否定することになる。君に感謝している人間が沢山いることを、忘れないでほしい。」
フランクリンの優しい瞳が頭を過る。
私は・・・
静かに窓の外を見る。
考えてみればあの時、宇宙服を着ずに此処から出ていれば、この苦しみを終わりにしたいという、自分の思いは遂げられた訳で。
それなのに私は宇宙服を着て外に出た。あれは・・・誰かに助けて欲しかったからなのだろうか。私は死にたいといいながら、本当は生きて居たかったのだろうか。私は・・・どうしたいのだろう?
突然、基地からエアロックに入る扉が開かれた。驚いて顔を上げる。
「此処で何をしているんですか?」
小柄な女性アメリカ兵がそこで立って、イワンを見つめている。彼女はちょっとだけ首を傾げ、エアロックに入ってきた。
この子は何処かで・・
「隣、いいですか?」
「あ、どうぞ。」
彼女はイワンの隣に腰を下ろし、ホッと溜息をついた。
「此処、私、良く来るんです。」
悲しげな顔で床を見つめながら、彼女は小さい声で言った。
「なぜこんな所へ?」
そう聞くイワンに、彼女は仄かに微笑んで答えた。
「此処から、ほら・・・マーロンが良く見えるでしょう?私、時々マーロンに乗って、地球へ帰りたくなるんです。」
「地球へですか?あんな滅んだ星へ、今更何故・・・」
「地球には私の愛した人が眠っています。だからここへ来るという話が出たとき、私泣いてしまって・・・」
はっとしたように顔を上げイワンを見た。
「ア、ごめんなさい。私アメリカ艦隊の、ポーリー・スタンレイです。貴方は・・・」
最初のコメントを投稿しよう!