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イワンは苦しくなる心をじっと押し込め、悲しげに微笑んだ。
「知っているでしょう?私はゼルティーで・・」
ポーリーがパッと明るい顔をした。
「そうだわ。貴方、あの時難しい決断をして、沢山の仲間の命を救った方でしたよね?確か・・・ニコラエフ少佐?」
あ・・・
彼女の言葉に一瞬言葉を飲み込んだ。仲間を裏切って、何人もの命を奪った男ですと。
「あんな決断をするなんて・・・辛かったでしょう?」
ポーリーの優しい瞳に、イワンはちょっと顔を赤らめ小さく言った。
「いえ、私の話より貴方の話をしてください。貴方の最愛の人だったという、その男性の。」
「彼の・・・ですか?」
イワンが頷いた。
「ええ、貴方こそ、辛い経験をされているのでしょう?」
ポーリーの顔をそっと窺うように見て、悲しげに俯いた。
「貴方の愛する人の命を奪ったのは・・・」
少し言い澱む。
「私たちなんですよね。」
ポーリーも俯いた。
「そうですね。」
静かにイワンの顔を見る。
「でもあれは戦争でしたから。私たちも貴方方の大切な人たちを・・・お互い様です。戦争ってそういうものでしょう?だから司令官は、それを止(や)めるように言われたのだと思います。これ以上人の命を、無駄に奪うことはないのだと。」
ポーリーは黙ってマーロンを見つめた。
「貴方は沢山のロシアの人々を救いました。それって凄いことだと思います。貴方が居なかったら今頃、ここで働くロシアの兵たちは殆どが月に残って、苦しみながら命を落としていったことでしょう。貴方は、それを救った。自分が苦しむことを分かって尚、それをした。」
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