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みんなそれぞれ、新しい生活に踏み出そうとしている。で、私はどうなの?私はどうしたい?
1人ゆっくりと立ち上がり、食堂から出た。
今日、彼女は休養日だった。1人基地の中をブラブラと歩く。暫く歩いていて、休憩用に広くなったスペースで、誰かが居ることに気が付いた。
あれ、誰かしら?何をしているの?
彼は休憩スペースの端の椅子に、窓に向いて座っていた。下を向いて何かをしているようで。静かに近づき、そっと覗きこんでみる。
彼の膝には、スケッチブックが乗せられていた。椅子の横には、何色も或る色鉛筆が置かれている。
彼はスケッチブックに絵を描いているようだった。窓から見える火星の景色。
唯赤いそれ。
しかし、彼のスケッチブックに描かれた景色は、同じ赤いだけの景色だったが。赤の色が違っていた。同じ赤なのに、これほど違うのかと思われるほど美しいグラデーション。彼には火星の景色が、こんな風に見えているのだろうか。
何だかちょっと羨ましくなる。
自分には唯赤いだけの星なのに、彼の中ではこんなに美しい景色に見えているなんて。
グレイスは、暫く黙って彼が絵を描くのを見つめていた。
「あの、隣に座ってもいいですか?」
暫くそうしていて、小さい声で聞いてみる。絵を描いていた男性は、驚いたように振り返った。
あ、この人、ロシアの・・・ミハエルさんだ。
灰色の落ち着いた光を持つ瞳に、見覚えがあった。
ミハエルは、はじめ驚いていたようだったが、ちょっと頬を赤らめどうぞと答えた。グレイスは、ミハエルの隣に腰を下ろした。
「私、アメリカ艦隊のグレイス・フォードです。暫く此処で見て居ていいですか?」
ミハエルはちょっと首を傾げた。
「私の絵をですか?」
「はい。駄目ですか?」
ミハエルは微笑んで「いいえ、勿論いいですよ。」と答えた。
「私はロシア艦隊の・・」
「ミハエルさんですよね?私貴方の事、知ってます。」
「そうですか。」
ちょっと微笑んで、ミハエルはまたスケッチブックに目を落とした。そうして絵を描き始める。暫くそうしていて、グレイスがそっと手を出した。
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