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タロット大統領との電話を終え、親衛隊保安局長官の河内と官邸で会う。これが上総の日課となっている。近頃では日向や六原よりも河内と顔を合わせる時間のほうが多いぐらいだ。 「因幡の逮捕は実現出来そうか」 因幡。突撃隊長官でありながらアメリカ中央情報局CIAにまんまと乗せられて上総の暗殺を企てて失敗。母方の故郷である北に中国大使館経由で亡命したあの男である。上総は大統領としての威信を保つためにも因幡の身柄を押さえる必要に迫られていた。 「中国を介して因幡の身柄引渡しを求めてますが、北が応じる気配はありませんな」 河内は応接用の低いテーブルを挟んで椅子に座り、身を前屈みにしている。河内は中将から大将に昇進した。だから襟の階級章は星がひとつ増えている。近々もうひとつ星が増えて元帥に任命されることが内定している。武蔵亡き今、空位となっている国家元帥の地位に最も近い位置にいるのが河内だ。 「因幡だけは生かしておくわけにいかん」 「でしょうな」 河内は椅子の背もたれに身体を預けて暫し考えていたが、やがて言葉を選ぶようにしながら極めて慎重に言った。 「この際です。因幡の身柄確保を潔く諦めるという選択肢もあり得るのでは」 「このままでは引き下がれないのだよ」 「私も同じ思いです」 「どうにか出来んのか」 「手は打ってあります。中国人に偽装した暗殺工作員を北に潜り込ませます。因幡には朝鮮半島で永眠してもらいましょう」 因幡暗殺作戦は直ちに実行に移された。 結果として、作戦は失敗に終わった。中国大使館経由でUSBメモリーが送られて来たのだ。北からのビデオメッセージであった。 ビデオ映像の中で因幡はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。勲章だらけの朝鮮人民軍の元帥服に身を固めた因幡の足下に、北に潜入した暗殺工作員が土下座させられていた。河内によれば、保安局のトップクラスのエリート工作員であった。二十歳の女である。
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