拾壱

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「グロック43か。いい拳銃だ」 「M&Pシールドもいい銃じゃないか」 グロック43を指先でくるりと一回転させた。拳銃を学生服の内側に仕舞い込んだ。監察係としての働きが認められて親衛隊の上等兵の階級を授けられ、さらに士官候補生に任命されたときに荒木少佐から銃の隠匿携帯許可証と共にもらった拳銃だ。 阿多は親衛隊の射撃教官松永中尉から実戦射撃術の指導も受けた。松永中尉の指導が良かった上に阿多が持って生まれた才能のせいもあったのだろう。阿多の実戦射撃術試験の成績評価は最優秀を意味する〈S級〉であった。とは言え、阿多は生身の人に向けて銃を撃ったことは一度もない。なるべくなら銃など人に向けて撃ちたくないものだ。 阿多を意識してか、京本も拳銃を指先でくるりと回してから、懐の中に颯爽と収めた。 「俺が今監視してるのは、あいつさ」 京本は遥か下界の通りをてくてく歩く学生服姿の男子中学生を指差した。 「あいつの罪を暴いて強制収容所に上手く送り込めば、俺のスコアは三十九になる」 スコアとは、すなわち、強制収容所に送り込んだ人数である。阿多のスコアは三十二。念京四中の監察係京本に現時点でスコアが六も負けている。京本のスコアが三十九になれば七の負けだ。 「すごいなあ。頑張ってるんだな」 「まあな。親衛隊保安局の将校になりたいんだ。そのためにも、手柄はたくさん立てておかなきゃね」 「俺も頑張らなきゃな」 「お互い頑張ろうぜ」 京本が握り拳を前に突き出した。阿多も握り拳を前に出して、京本と利き腕同士をぶっつけ合って親愛のポーズを取った。 「じゃあな、阿多」 京本一郎が急降下を始めた。京本の監視対象が何かをやらかしたようだ。京本は急降下しながら小型カメラを構え、地上の撮影を開始している。 俺も、京本に負けないように、もっともっと頑張らなきゃな。 阿多は決意を胸に、ふわりふわりと漂いながら京本とは逆の方角へと身体の向きを変えたのだった。
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