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時計は午後6時を回った。秋口故にもう空の色は夜に染まり始め、
子供たちに帰宅を促す市のアナウンスと音楽が流れている。
僕は会社のベランダで黄昏ながらため息をついた。
「仕事が終わらん」
同僚も皆帰ったのに、僕のデスクの上には上司に押し付けられた書類が
まだ山積みだった。もう何かやる気が失せ切った僕はこうやって休憩及び
現実逃避を兼ねてベランダで外の空気を吸っていた。元を辿れば満面の
笑みで仕事を引き受けた僕も悪いのだが、何もこんな量一人に押し付ける
こともないじゃないか。お前に人の心は無いのか上司よ。そんな愚痴を心
で呟き切って、僕はデスクに戻る。そうしないといつまで経っても帰れ
そうにないからね。
「ん、なんだこれ。…木魚?」
戻った直後、デスク上に見慣れない物が置いてあった。
お土産屋で売ってそうな木製の置物。というより空いた穴などから
察するに木魚のようだった。勿論僕の物ではないし、趣味でもない。
誰かが悪戯で置いたのだろうか。
「まったく、忙しい時に変な悪戯しやがって」
捨てるのも面倒だったので、そのままデスクの端に寄せて仕事を再開した。
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