もくぎょっ!

1/7
前へ
/7ページ
次へ
 時計は午後6時を回った。秋口故にもう空の色は夜に染まり始め、  子供たちに帰宅を促す市のアナウンスと音楽が流れている。  僕は会社のベランダで黄昏ながらため息をついた。  「仕事が終わらん」  同僚も皆帰ったのに、僕のデスクの上には上司に押し付けられた書類が  まだ山積みだった。もう何かやる気が失せ切った僕はこうやって休憩及び  現実逃避を兼ねてベランダで外の空気を吸っていた。元を辿れば満面の  笑みで仕事を引き受けた僕も悪いのだが、何もこんな量一人に押し付ける  こともないじゃないか。お前に人の心は無いのか上司よ。そんな愚痴を心  で呟き切って、僕はデスクに戻る。そうしないといつまで経っても帰れ  そうにないからね。    「ん、なんだこれ。…木魚?」  戻った直後、デスク上に見慣れない物が置いてあった。  お土産屋で売ってそうな木製の置物。というより空いた穴などから  察するに木魚のようだった。勿論僕の物ではないし、趣味でもない。  誰かが悪戯で置いたのだろうか。  「まったく、忙しい時に変な悪戯しやがって」  捨てるのも面倒だったので、そのままデスクの端に寄せて仕事を再開した。  
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加