1 秋晴れの旅

2/4
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
「そんなに離れがたい? ミュゼル。『あいつ』と」 「! お兄様ったら」  パッ、とこちらを向いた妹のストロベリーブロンドがつられて跳ねる。長旅でも負担がないよう、結い上げてはいない。両サイドの髪だけを掬い、ふわふわとした三つ編みにしている。それで余計に、ちょっとした動きに反応するようだった。 (……なんだこれ。可愛すぎる。こんなの、絶対『あの男』に見せるべきじゃないな)  レナードは、にこにこと畳みかけた。 「まったく。せっかく婚約したというのにルピナス殿は冷たいね。母君のジェイド公爵閣下だって、ご子息の今年いっぱいの東都入りは認められたのに。何も、王太子殿下から余暇までいただく身で、わざわざ王城に留まらずとも」 「それは……仕方ないわ。だって、王妃様のお呼び出しだもの。用向きだってはっきりしてる。きっと、ご公務でお忙しい第二王子殿下の補佐とお目付け役なのよ。誰にでも出来る仕事じゃないわ」 「ふうん? トール殿下には、とびっきり優秀な()(くに)の呪術師で、元暗殺者一族だった護衛官がいるじゃないか。彼女――シェーラ殿だったか。相当な切れ者だろう? 何しろ、改心したとはいえあの事件の首謀者だ」 「根に持ってるのね」 「当然だよ」  ふん、と顔を(しか)めると、今度は妹のほうが大人びた微苦笑を浮かべた。 「たしかに、シェーラ殿は優秀なかたよ。過ちもありました。けど、ちゃんと(あがな)いを済ませていらっしゃるわ。いつまでも事件についてあげつらうのは良くなくてよ? お兄様」 「寛大なことだ。だから許してあげたの? 『あいつ』にも居残りを」 「もうぅっ。さっきから、いじわるなお兄様ね。そんなに彼がきらい? ルピナスはいいひとよ」 「それはわかる。むしろ、嫌味なほどよく出来た未来の義弟(おとうと)ぎみだと思ってるよ。あぁ認めたくない」 「まあ!」  心底本音を交え、オペラ役者よろしく大げさな身振りで嘆いて見せると、色白の妹の肌にポッと赤みが差した。悔しそうな顔から一転、ころころと朗らかな笑い声をあげる。  レナードはほろりと笑んだ。「元気になって良かった」 「あ」
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!