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「そんなに離れがたい? ミュゼル。『あいつ』と」
「! お兄様ったら」
パッ、とこちらを向いた妹のストロベリーブロンドがつられて跳ねる。長旅でも負担がないよう、結い上げてはいない。両サイドの髪だけを掬い、ふわふわとした三つ編みにしている。それで余計に、ちょっとした動きに反応するようだった。
(……なんだこれ。可愛すぎる。こんなの、絶対『あの男』に見せるべきじゃないな)
レナードは、にこにこと畳みかけた。
「まったく。せっかく婚約したというのにルピナス殿は冷たいね。母君のジェイド公爵閣下だって、ご子息の今年いっぱいの東都入りは認められたのに。何も、王太子殿下から余暇までいただく身で、わざわざ王城に留まらずとも」
「それは……仕方ないわ。だって、王妃様のお呼び出しだもの。用向きだってはっきりしてる。きっと、ご公務でお忙しい第二王子殿下の補佐とお目付け役なのよ。誰にでも出来る仕事じゃないわ」
「ふうん? トール殿下には、とびっきり優秀な外つ国の呪術師で、元暗殺者一族だった護衛官がいるじゃないか。彼女――シェーラ殿だったか。相当な切れ者だろう? 何しろ、改心したとはいえあの事件の首謀者だ」
「根に持ってるのね」
「当然だよ」
ふん、と顔を顰めると、今度は妹のほうが大人びた微苦笑を浮かべた。
「たしかに、シェーラ殿は優秀なかたよ。過ちもありました。けど、ちゃんと贖いを済ませていらっしゃるわ。いつまでも事件についてあげつらうのは良くなくてよ? お兄様」
「寛大なことだ。だから許してあげたの? 『あいつ』にも居残りを」
「もうぅっ。さっきから、いじわるなお兄様ね。そんなに彼がきらい? ルピナスはいいひとよ」
「それはわかる。むしろ、嫌味なほどよく出来た未来の義弟ぎみだと思ってるよ。あぁ認めたくない」
「まあ!」
心底本音を交え、オペラ役者よろしく大げさな身振りで嘆いて見せると、色白の妹の肌にポッと赤みが差した。悔しそうな顔から一転、ころころと朗らかな笑い声をあげる。
レナードはほろりと笑んだ。「元気になって良かった」
「あ」
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