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「はい、どうぞ。カフェラテです」
マグカップの縁からはみ出しそうな、ふくふくとしたスチームミルク。持ち上げると、予想以上に軽かった。
「ありがとう。いただきます」
縁に唇をつけて、すする。
口のなかに広がるのはほろ苦い泡ばかりで、あっというまに消えてなくなった。
「どう?」
「おいしい。あわあわしてて」
すると、陣内はなぜか顔を顰めた。
「あーやっぱり? 店長によく言われるんです。お前がいれるラテは軽すぎる、これじゃカプチーノだって」
たしかに、持った時の重量感や口当たりは、カプチーノに近い。
スチームしたてのミルクは空気を含んで軽くなるから、ラテを作るときは重さに気をつけろと、自分もよく吉津に言われていたものだ。
「でもおいしいよ」
ふわふわとして捉えどころがなく、ほのかに甘い。
眉を上げながらもうひと口啜ると、彼は照れ臭そうな顔をした。
それから、こちらがそれを飲むのを、例の窒息しそうな視線でじっと見つめてくる。
口の端についた泡を舐め取る舌先までもが、彼からの視線を受けて、痺れていく。
「ごちそうさま」
急いで残りを飲み干したせいか、急速に体が温まり、軽く汗ばんでさえいる。
「半田さんも俺に作ってくださいよ」
「作るって?」
「元バイトじゃないですか。半田さんのいれたラテ飲みたいな」
「部外者をバーカウンターにいれたら、よっしーに怒られるよ」
「大丈夫。半田さんだもん」
それでも、吉津に断りを入れずに勝手なことをするのは気が引ける。
なかなか立たないでいると、手首を掴まれた。
「ほらー、早く」
手首を掴んでいた彼の手が徐々に下りてきて、ついに、指先に絡まってくる。
触れていたのはバーカウンターに回るまでのほんの数十秒。
しかし、半田は本気で思った。
窒息してしまいそうだと。
彼の皮膚の余韻を残した手のひらはだんだん熱くなり、ついには掻痒を伴って、半田をしぶとく困惑させた。
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