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「あのさ、どうする?」 「どうするって?」 「果乃のこと……」 半田は、淡い幸せを押し殺しながら言った。 陣内と企てている計画とやらが具体化していないので、果乃との関係も宙ぶらりんになったままだ。 仕事を理由に、最低限のやりとりだけを継続しながら、まだお茶を濁している。 しかし、そう長くはこうもしていられないだろう。計画を実行するにしろしないにしろ、なるべく早く、きっぱりと終わらせたかった。 その是非を、彼に問う必要があるわけではないが——— 「その話、今しなきゃだめですか?」 陣内はキャップを取り、つばをいじりながら俯いた。 しぶられたのは予想外だった。 「だめって、計画立てるために呼んだんじゃないの」 「違う」 彼はスマートフォンを手元のマグカップにかざし、シャッターを押した。 そのまま画面を操作し始めたので、半田はなんとなく返事のタイミングを逃してしまう。 つられて自分もSNSのアプリを起動してみると、予想通り、陣内は今の写真を投稿していた。 「いままで飲んだ中でいちばんおいしいカフェラテ。完敗!」という一言を添えて———— 「また匂わせてるの」 「そー。ぷんぷんしてるでしょ」 「果乃にというよりは、よっしーにばれちゃうんじゃない。背景とかで」 「いいよ別に」 彼が髪を耳にかける仕草に気を取られながら、半田は相槌を打った。 「適当だなぁ」 「ほら、自由で大胆ですから」 彼が放った皮肉に重なるように、耳元でシャッター音が鳴った。 顔を上げると、スマートフォンのカメラと目が合う。 「いま、俺撮った?」 「撮りました」 「アップしないよね」 不安そうに聞こえたのか、陣内がカラカラと笑う。 それを目にして、平静を取り戻しつつあった鼓動が、またざわめき始めた。 痒くて、痛い。 どうしていいかわからず、持て余した指先でスマートフォンを彼に向けた。 頬杖をつき、バーカウンターのほうを向く横顔を捉えると、彼もこちらを向いた。 「なんで撮ったんですかー」 「お返し」 言うと、やたらと嬉しそうに表情を崩して笑う。 この今の表情をもう一度、カメラに収めたいと、半田は思った。 しかし同時に、その純粋な欲求が恐ろしくなる。 「今日はありがとう」 だからあえて、話を切り替えた。 「うん。俺も逆にごちそうさまでした」 「わざわざお礼なんて気にしなくてよかったのに。律儀だなぁ」 理由をはっきりさせなくてはいけないような気がした。 彼が自分を呼び出したのは、お礼をするためだと。 しかし彼は、半田が決めつけるように発した一言を、きっぱりとはね退けた。 「俺が半田さんに会いたかっただけだから」 半田は口をつぐんだ。 掻痒はすでに、全身を蝕んでいる。 「待っててください。次会うときはかならず、プランC考えときますから」 退路を断たれ、熱に浮かされながら、ひとりぎこちなく頷いた。
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