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4
半田は生あくびを噛み殺すと、PCのキーボードに添えていた手を、スマートフォンに移した。
それから、あの時撮った陣内の写真を開く。
横顔は、正面から見た時とまた印象が違う。
立体的で、鼻筋が通っていて、首や喉仏、鎖骨の張り具合が男性的だ。
——こうして彼の写真を眺めてばかりいて、やはり笑顔の写真も収めておくべきだったとまで考えている自分が、つくづく気持ち悪いと思った。
前に会った時からどうもだめなのだ。
すべてが曖昧な、生ぬるい心地よさに浸ったままでいる。
口元に手を押し付けながら長いため息を吐くと、ついでにSNSの画面を開いた。
今日はまだ、陣内からDMが来ていない。
流れでなんとなくタイムラインを追うと、果乃の投稿が目に留まった。
たった今、投稿されたものだろう。カフェの、やたら大きな皿の中心にぽとりと盛られたパスタを捉えた写真だ。
後ろにもう一皿写っているから、誰かと一緒にいるらしい。
なんてことない日常の写真だが、背後に映り込んだスマートフォンケースの存在に気付き、半田は改めて見直した。
それから、そのケースが陣内のものであることを把握すると、瞼を閉じるように、反射的にスリープ画面に切り替えた。
そして呼吸を繰り返し余白を生むことに努め、もっていかれていた意識を、どうにかして自分の元に引き寄せた。
思えば、ここ最近がおかしかったのだ。
なにもかもが奇妙で、尋常ではなくて、麻痺したように浮かれていた。
それこそ、自由奔放で枠にはまらない、彼に流されるまま。
彼のつくる、泡だらけでふわふわとした、実態の掴めないなにかに————
半田は、深呼吸をして、心に立った白波の正体が何なのかを見極めようとした。
それが徐々に輪郭を帯びてくると、ふたたび浅い呼吸を繰り返す。
それからスマートフォンをふたたび手に持ち、メッセージアプリを起動した。
もう、このままではいられない。
そう強く思った。
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