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着信画面に陣内の文字を確認した時、迷いが生じた。 日中の勤務を終えて帰宅し、ようやくわずかな余白が生まれたばかりだったからだ。 しかし、着信が響くのと同時に彼の気配がひたひたと流れ込んできては、心の目地を埋めていく。 半田はまだ濡れた髪をフェイスタオルでこすりながら、画面をしばし見つめた後、タップした。 「これから会えますか?」 彼の第一声はあまりにも唐突だった。 「急にどうしたの」 「返事返ってこないし、投稿もなかったので」 今日はあれから一度もSNSを開いていない。昼食の写真も投稿しなかった。 夕方に彼からメッセージの着信通知がきていたが、内容はまだ確認していない。 「ごめん。今日は忙しくて……」 「そっか」 罪悪感を飲み込んで、半田は相槌を打った。 惚けることもできたはずなのに、彼の声を聞くと、そう器用にもいかなかった。 「会えませんか」 「今日はもう遅いし。俺も風呂とか入っちゃったから……」 「じゃあ半田さんちまで行きます」 やんわりと拒絶を匂わせると、ふてくされたような声で食い下がってくる。 「どうしたの。そんなに急な用事なの?」 「会いたいだけだよ」 舌の上で転がしていたわずかな甘みは、彼から吐き出された素直さによって、弾けた。 全身をめぐる血が発泡したような、そんな心地にとらわれ、持っていたフェイスタオルで口元を押さえつける。 「迷惑かけません。顔見て少し話したらすぐ帰りますから」 「少しなら……」 すると、陣内は嬉しそうな声で「わかりました」とだけ言った。
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