5

4/8

339人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
「ごめんなさい。俺、なにかしました?」 彼の不安そうな声を聞いて、はっとする。 こうして不機嫌になるきっかけを、彼に本音を吐露するタイミングを——自分はずっと待っていたのだ。 突き放したいような、それでいて、離れてしまうのが惜しいような。 中途半端な思いにしばし揺られて、半田は肩に置かれた手にもたれかかるように、そっと身を委ねた。 「嘘つくから」 「え?」 「パスタ食べたんじゃないの」 楽になったのは吐き出した瞬間だけで、すぐに羞恥に埋め尽くされる。 自分はなにを言っているのだろうか———— だが、気まずさは彼からすぐに埋めてくれた。 陣内のほうは、こちらの細やかな心情など、汲み取る余裕もなかったらしい。 抱き寄せられ、唇を重ねられた時は、彼の荒々しさに安堵さえ感じたほどだ。 「半田さん、もしかして嫉妬してくれた?」 壁に押し付けられ、両手で顔を挟まれる。 それから彼は、噛み締めるように目を閉じた。 「すっげ嬉しい……」 ふたたび、唇を塞がれる。 「んっ」 昂った部分を押し付けられ、Tシャツの中に手を入れられた時、半田は慌てて手首を掴んだ。 「待って、陣内君……」 キスの合間にやっと名を呼ぶと、彼は我に返ったように顔を上げた。 「あ、ごめん。もしかして俺、早とちりしました?」 「え?」 「なんか勝手に舞い上がっちゃったけど……普通に、果乃を取られたくないとか——そっちのほうの嫉妬でした?」 暴走ののち、途端に焦り始める。いつになくコミカルな彼の言動に笑ってしまった。 「いや、そっちじゃないほうで合ってる」 瞬間、彼の表情が晴れた。そのあまりの可愛さに、半田はふと、順序など飛ばしてしまおうかとも思った。 しかし————— 「でも、果乃とのことはちゃんとしないと……」 雰囲気に水を差すようで気が引けたが、このままというわけにもいかなかった。 これでは、とても彼女を責められたものじゃない。 しかし、陣内の表情は依然、明るいままだ。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

339人が本棚に入れています
本棚に追加