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「ごめんなさい。俺、なにかしました?」
彼の不安そうな声を聞いて、はっとする。
こうして不機嫌になるきっかけを、彼に本音を吐露するタイミングを——自分はずっと待っていたのだ。
突き放したいような、それでいて、離れてしまうのが惜しいような。
中途半端な思いにしばし揺られて、半田は肩に置かれた手にもたれかかるように、そっと身を委ねた。
「嘘つくから」
「え?」
「パスタ食べたんじゃないの」
楽になったのは吐き出した瞬間だけで、すぐに羞恥に埋め尽くされる。
自分はなにを言っているのだろうか————
だが、気まずさは彼からすぐに埋めてくれた。
陣内のほうは、こちらの細やかな心情など、汲み取る余裕もなかったらしい。
抱き寄せられ、唇を重ねられた時は、彼の荒々しさに安堵さえ感じたほどだ。
「半田さん、もしかして嫉妬してくれた?」
壁に押し付けられ、両手で顔を挟まれる。
それから彼は、噛み締めるように目を閉じた。
「すっげ嬉しい……」
ふたたび、唇を塞がれる。
「んっ」
昂った部分を押し付けられ、Tシャツの中に手を入れられた時、半田は慌てて手首を掴んだ。
「待って、陣内君……」
キスの合間にやっと名を呼ぶと、彼は我に返ったように顔を上げた。
「あ、ごめん。もしかして俺、早とちりしました?」
「え?」
「なんか勝手に舞い上がっちゃったけど……普通に、果乃を取られたくないとか——そっちのほうの嫉妬でした?」
暴走ののち、途端に焦り始める。いつになくコミカルな彼の言動に笑ってしまった。
「いや、そっちじゃないほうで合ってる」
瞬間、彼の表情が晴れた。そのあまりの可愛さに、半田はふと、順序など飛ばしてしまおうかとも思った。
しかし—————
「でも、果乃とのことはちゃんとしないと……」
雰囲気に水を差すようで気が引けたが、このままというわけにもいかなかった。
これでは、とても彼女を責められたものじゃない。
しかし、陣内の表情は依然、明るいままだ。
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