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——付き合ってもう一年以上になる3つ年下の恋人・果乃に二股疑惑が上がったのは、共通の知人である吉津からの一報だった。
彼は半田が大学の4年間、アルバイトをしていたカフェの店長で、半田が就職した今もたまに飲みに行く仲である。
連絡不精な吉津から「今夜、電話をしていいか」という断りのメッセージが来たときは、なんとなく嫌な予感がした。
そして予感の先に果乃がいることにも、同時に勘づいたのだった。
果乃とはカフェのアルバイトを通じて交際に発展した。ふたりの間を取り持ってくれたのは他ならぬ吉津であり、なにかと気にかけてくれていたからだ。
「はんちゃん、ジンのこと知ってるよね。うちのバイトの陣内」
「陣内?」
「ああ、知らないのか」
なんでも、半田が就職を機にアルバイトを辞めてから、ちょうど入れ違いになる形で入ってきた男らしい。
その時は果乃もまだカフェでのアルバイトを継続していて、彼女が彼に実務を教える機会も多かったという。
「ふたりが仲良いのは知ってたんだけどね。この前、見かけてさ。その——ジンと果乃ちゃんが手つないで歩いてるところ……」
頭が真っ白になるというより、黒く塗りつぶされたような心地だった。
吉津の声がだいぶ遠くから聞こえるが、内容がまるで入ってこない。
しかし、今の発言以上に重要なことなんて、きっと何もないはずだ。
半田にできることといえば、軽く笑って受け流すぐらいだった。
妙なプライドが邪魔をして、深く追及することができない。
吉津はそんな半田の性格などとうにお見通しだから、こちらの望むままに流されてくれた。決して押し付けがましくない、彼の優しさに救われたのだった。
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