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「明日はもっとすごいことしましょうね」
「すごいこと?」
「するっとは、いかないかもだけど」
瞳が妖しく光り、視線が泳いでしまう。
彼はふたたびゆるい笑みをつくって、半田を油断させた。
「なにするの」
「自由で大胆で、枠にはまらないこと」
「……すごそうだね」
半田が笑うと、彼は口を尖らせた。
「そうやって流してー。余裕ぶってると知りませんよ」
「いや、そういうわけじゃないけどさ」
彼となら、深海にまで行けるだろう。
半田を包み込むのは、ただなんとなくの安楽だった。
「で、すごいことした後はどうするの」
「一緒にお昼ごはん作って食べて、また夜までいちゃいちゃして」
「帰るの面倒になって、また泊まる?」
大当たりと言わんばかりに、にっかりと笑う。
それから、転がって仰向けになった。
「明日は俺も、お昼ごはんの投稿しようっと」
それはつまり、こちらが投稿する前提の話なのだろう。彼が意図しているのはつまり、同じ料理を、同じタイミングで投稿するということだ。
「陣内君さぁ、けっこう匂わせたがりだよね」
「匂わせたいときが匂わせ時ですから」
「嗅ぎ取ってくれるの、よっしーぐらいだと思うけど」
彼は笑いながら、たしかにと言った。
隣に寝そべる彼の、ベッドの縁から突き出た足首を眺めながら、半田は思う。
体にぶつかる骨張った感触も、体温の高さも、回される腕の太さも——今視界に入るもの、ふれているもの。
そして、彼と重ねてきたすべてが「すごいこと」の上書きなのかもしれない、と。
彼となら、深海どころか、宇宙にだっていけるかもしれないな。
そんなことをふと考えた、深夜2時であった。
〈完〉
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