347人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺って、浮気相手だったのかー……」
陣内はアイスティーをストローで啜りながら、椅子の背もたれに腕を掛けた。
木の軋む、みしりという音が響く。
口調は相変わらず一本調子で、悲哀も怒りめいたものも感じられない。
「すでに半年続いてるなら、きっと浮気じゃなくて本気だよ」
半田はコーヒーカップの取っ手に人差し指を引っ掛け、意味もなくカップを半回転させた。
「でも、半田さんとは俺よりも長く付き合ってるわけですし」
「長さは関係ないよ。俺とはそのうち終わらせるつもりだったんじゃないかな」
「どうしてですか?」
陣内から、例の養生テープじみた視線を感じて、半田は下を向いた。
「なんとなく」
半田は相槌を打つと、カップに口をつけた。
曖昧だが、率直な意見だ。
なにがどうとは言えないが、とにかく自分は、この男に、全面的に負けている。
最初に店に入ってきた瞬間から、ずっと思っていたことだった。
「しかし、よくもまぁ気づかずにここまできたなぁ。普通、SNSとかでバレそうなもんですけど」
大胆なことに、果乃は半田と陣内、ふたりをフォローしていた。
「俺があまりSNSに関心ないから、バレないと思ったんじゃないかな」
「それ、俺もだ。いやー、舐められてんなー」
彼は画面をスクロールしながら、にやにやと笑っている。まるでこの状況を楽しんでいるかのようだ。
——事実は、半田の見立てと概ね一致していた。
陣内はカフェのすぐ近くにあるF大に通う学生で、半田が辞めたすぐ後に、アルバイトとして入った。
果乃とはシフトが被ることも多く、徐々に親しくなっていったそうだ。
ちょうど半年前、彼女がカフェのバイトを辞めるタイミングで告白されたらしい。
果乃に対して何の疑いももつことなく、これまで普通にお付き合いしてきたそうだ。
最初のコメントを投稿しよう!