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「さて、どうしましょっか」 彼はアイスティーをすべて啜ってしまうと、両手を組んで前屈みになった。 まるでこちらに今後を託しているかのような問いかけだ。 それに、なにを話しても他人事で、終始うわの空なのも引っかかる。 時折投げかけてくる、窒息しそうな視線も—— 「俺はもう別れるよ。知った以上、続けていくのは無理だから」 「いやー、俺だって無理ですよ」 彼は、暇を潰すかのように、ストローの紙袋でこよりをつくっている。 袋の端がテーブルの水滴によってふやけ、白さを失っていく。 「そっか。そうだよね」 テーブルの木目になじんで溶けていくそれを、焦点の合わない目で追った。 伝票を持って席を立つと、陣内が顔を上げた。 「そろそろ出ようか」 声をかけると、陣内はやたら音を立てて椅子を引き、後をついてくる。 まとめて会計を済ませると、彼はたどたどしく頭を下げた。まるで柳の枝が揺れるようなお辞儀の仕方だった。 店の外でふたたび向き合ったとき、彼の背の高さに少し驚く。 手や肩幅からおおよその推測はできていたが、予想していたよりもひと回り大きかった。自身の目線の高さは、彼の喉仏にある。 それから、飴玉のように丸く突出したちょうど中心に、新たなほくろを見つけた。 「突然、ごめんね。余計なことして」 「いえいえ。知らないでいるほうが嫌ですし」 「そう言ってくれるとありがたい」 彼はまた、こちらのネクタイの結び目あたりを見つめている。 別れを切り出すタイミングにしばし迷ったのち、ようやく告げようと、口を開きかけた時だった。 まるで意図しないタイミングで、陣内がそれを遮った。 「あー、なんか今んなってじわじわむかついてきたなぁ……」 だいぶ時差があるなとは思いつつも、どう反応してよいのかがわからない。 突っ立ったまま様子を伺っていると、ふたたび視線が合った。 「半田さん、ふたりで仕返ししません?」 「え?」 「こっちから一気に振ってやりましょうよ」 「一気にって、どうするの」 それから、彼は今日見た中でいちばん悪い笑みを浮かべた。 「計画立てましょ。まだ時間あります?」 悪い表情が解けた瞬間のその屈託のなさに、目が離せなくなる。 いつのまにか彼のペースに引きずり込まれていることに気づき、敗北を再認識させられたのだった。
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