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「まず俺と果乃で映画館入るじゃないですか。そしたら果乃を挟んだ隣の席に半田さんが座ってるっていう設定はどうです?」 「上映直前に?」 「そ。もう映画どころじゃないやつ」 酔うと機嫌が良くなるのか、それともすでに開き直っているのか。 計画を立てるために入った居酒屋で一杯あけると、彼の声は先ほどよりもワントーン上がった。 「その後の修羅場を考えたら、家のほうが無難だと思うけどね。家に果乃呼んで、2人で待ち伏せしてるっていうパターンとかさ」 「やー……。でもー、それじゃあつまんないです」 まだ二十歳になったばかりの彼は、そこまで酒に強いわけでもないらしい。 2杯目の梅酒サワーはグラスにまだ半分ほど残っているが、顔はすでに真っ赤だった。 「つまんないって、エンタメじゃないんだよ」 「エンタメですよー。せっかくだから楽しまないと」 机に突っ伏したまま動かなくなったと思ったら、突然、勢いよく顔を上げた。 その極端なリアクションは、もろに酔っ払いのそれである。 「じゃあ、プランB! 半田さんちに果乃呼んで、まずふたりで『13日の金曜日』観るんです。で、盛り上がるシーンで、俺がジェイソンのマスクしてクローゼットから登場すんの。どう!?」 「どうって?」 「もちろんチェーンソー抱えて。それでさんざん脅かした後、問い詰め地獄突入。これめちゃくちゃよくないです?」 一体、それのなにがめちゃくちゃいいのか。 半田はビールジョッキの水滴をなぞりながら、けらけら笑っている陣内を見た。 計画を実行に移せるかどうかは定かではないが、彼が楽しそうならば、もうそれでいい気さえした。 「とりあえず、ジェイソンはチェーンソーで人殺してないからね」 「え? そうだっけ?」 「うん。たぶん別の何かとごっちゃになってる」 どうやらすぐに検索したらしい。 陣内はスマートフォンを片手に「ほんとだ」と呟くと、上半身をテーブルに投げ出した。
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