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「今ちょっと確認していいですか?」
「ここで?」
こちらの返事も待たず、彼はメニュースタンドにスマートフォンを立てかけた。それから動画配信アプリを開き、「13日の金曜日」を選択する。
間もなくして、本編が始まるが、序盤から男女のセックスシーンがやたら挿入されており、初対面の相手と観るのは、妙な気まずさがあった。
「……半田さんと果乃がやってるとことか、想像つかないですねー」
「なにいきなり」
「半田さん、清潔感あるから」
清潔感という言葉でごまかされてはいるが、それはつまり、色気がないということだろうか。
半田が中途半端に首を傾げていると、陣内はふたたび笑った。
「パリッとしてて爽やかで。最初店で会ったとき、これはもう勝ち目ないなって思ったんですよ」
「うそだ」
「いやほんとに。真顔だとちょっと神経質そうだけど、喋ったり笑ったりすると穏やかで可愛いし、ちゃんとしてるし。大人だし」
陣内はお世辞を言うようなタイプでもなさそうだ。
可愛いという表現に戸惑いつつも、彼も同様の感情を抱いてくれていたことが意外だった。
「スーツ補正入ってるだけで、中身は子どもみたいなもんだよ。陣内君と4つしか変わらないし」
「んー、でも俺とは全然違います。余裕があるっていうか」
「余裕があるなら、SNS使って二股相手を呼びつけたりしないよ」
こそこそと調べて、裏口から入るみたいな真似をして。
いざ対面しても、奪い返すほどの熱意や覚悟も持ち合わせていない。
吉津に真実を告げられたあの時——つまり、最初から答えが出ていたのに。
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