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「俺には、陣内君のほうがまぶしく見えるけどね」
「え?」
「俺にはないものを持ってるから」
「別になんもないですよ?」
「なんもないからいいんだよ」
ピンときていないのか、陣内はさやに齧り付いて枝豆をむしり取りながら、天井を見た。
「持ち前のものだけで勝負できるってこと」
「持ち前ぇ?」
「んー、なんだろ。俺のことは理屈で選んだけど、陣内君のことは本能で選んだって、そんな感じがする」
自分で言っていて虚しくなるが、本当にその通りだ。
同時に敗北という言葉が、濃く浮き出てくる。
しかし彼に不快や劣等を抱くことはなく、むしろあるのは、妙な清々しさだけだ。
彼は空になったさやを皿に置くと、スマートフォンの方を向き、ぽつりとつぶやいた。
「あ、またやられた」
画面の中では、殺人鬼が本領発揮している。
半田もつられて画面に見入っていると、やがて彼がオーダーした唐揚げが運ばれてきて、映画はいったん中断となった。
陣内は唐揚げを丸ごと口に放り込むと、片手でスマートフォンをいじりはじめた。
間もなくして、半田のスマートフォンが反応する。
Jin_Jin_Jingle Bellsさんからフォローされました
SNSの通知。いうまでもなく、彼のアカウント名だった。
「俺のことフォローしたら果乃に勘付かれちゃうよ」
「えー、いちいち見ないでしょ。誰が誰をフォローしてるとか」
「果乃はそういうのすぐ気づくよ」
まだ付き合って間もない頃、同期入社の女の子をフォローしたら、詮索されたことがあった。
そういうところまでくまなくチェックするのが彼女なのだ。
「残念ー。まあでも計画倒れになったらつまんないかな」
彼は唇を尖らせながらも、しぶしぶフォローを外した。
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