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絵理の伯母の家を借り切って集まり、みんなでの食事会。それが、絵理の一族の恒例のようなものだった。以前は祖父母の家で行っていたのだが、どちらも四年以上前に相次いで他界。家も取り壊してしまったので、ここ数年は伯母の家かレストランで年越しをすることになっているのである。
料理は女性陣が腕によりを作ってくれた。チャーハンに焼き豚、餃子に麻婆豆腐。年越しらしくはないかもしれないが、身内に中華が好きな人が多いので自然と中華料理メインで並ぶことになるらしい。
今時、料理をするのも準備をするのも女性のみ!なんて考え方は古いとしか思えない。片づけさえ、男性陣の多くは座ったまま、皿をキッチンに持っていくこともしない始末である。田舎の家なんて、令和のご時世でさえこんなものなのだろうか。僕としては申し訳なくてそわそわしてしまうのだが、僕の“役割”を考えると安易に立ち上がるわけにもいかないのが歯がゆかった。
「ほんと、男どもは全然手伝わないんだから!」
キッチンから、伯母さんや絵理、絵理の妹や恵美さんたちのぼやきが聞こえてくる。
「料理はまあ、できない人に無理にやらせようとは思わないけど。せめて、食材の買い出しを手伝うとかしてもいいのにねー。いつまで昭和の時代で生きてるつもりなのかしら」
「まあまあ伯母さん。下手に手や口を出されるよりいいですって」
「もう、絵理さんは甘いのよ!」
「伯母さーん、こっちの焼き豚どうしますか?余った分、全部タッパーに詰めて冷蔵庫でいいでしょうか?お鍋ごと入れるのはちょっと無謀ですし」
「あーそうねえ。手間だけど小分けにして頂戴。冷蔵庫、結構混雑してるみたいだし」
「お茶もみんな飲みたいだろうし、おかわり入れるわね」
「恵美さんすみませんねえ、手伝わせちゃって……」
ああ、罪悪感がハンパない。目玉焼きも焼けない男ということになっているが、本当は僕は目玉焼きどころかオムライスくらい作れる腕はあるのだ。人様のキッチンでは多少苦労するだろうが、本来ならば多少料理で戦力になるくらいできるつもりなのである。このまま座っているなんて、本当に居心地悪いったらない。
「あいつら、またぐちぐち言ってるよ」
そんな僕に気づいてか、古い考えの持ち主である伯父さんはにやにやと笑いながら声をかけてきた。かなり飲んでいたようで、顔はすっかり赤くなっている。今日、息子さん一家を車で送る約束をしていなかっただろうか。この調子では車を出すどころか、まともに外に出ることもままならない気がするのだがどうするのだろう。
「史郎さん、気にするなよ。料理は女の仕事だ。ほら、こっち来て一緒にテレビ見ようぜ。あんたも結構、お笑い好きな人だろ?」
「ま、まあ……」
本当はお笑いよりスポーツが好きなんだけどなあ、とは心の中だけで。
伯父さんたちの“味方”を演じるのは、なかなか大変だ。
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