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えんじる、えんじる。
今月入る給料は、合計でいくらくらいになるだろうか。僕はビールを飲みながら、頭の中でつらつらと考えていた。
年末は“事情”を抱える人や企業が多いようで、少なくとも先月よりはかなり懐が温かくなる予定ではあった。家に帰ったらきちんと計算してみようと決める。それによって、正月に買うおせち料理のランクも変わってくるというもの。
たまには、仕事の同僚たちと焼肉なんかもしてみたい。たまには良い肉が食べたいです、奢ってくださいよ先輩!とうるうるした目でおねだりされたのは記憶に新しい。
「ああ、そういえば恵美さんは初めてなんですっけ?うちの旦那と顔を合わせるの」
大晦日。例の感染症も少し落ち着いてきたということで、久しぶりに集まった親戚と知人達。向こうで絵理が、僕の方をちらっと見て合図を送ってきた。どうやら、初めて顔を合わせる親戚がいたらしい。僕はグラスを置くと、すくっと立ち上がった。絵理のすぐ目の前に、中年の女性とその夫らしき中年男性が立っている。なるほど、確かに見覚えのない顔だ。
「初めまして、絵理の夫の、長谷部史郎です。絵理、こちらの方は?」
まずはぺこりとご挨拶。むすっとした顔の男性に対して、女性の方はにこにこと愛想が良い。絵理も愛想笑いをしながら、僕に彼女達を紹介してくれる。
「私の妹の……真理の旦那さんの会社の方々よ。上司の佐藤巧さんと、奥さんの佐藤恵美さん」
「ああ、そうでしたか。真理さんがお世話になってます」
「あらあらあら、なんとも優しそうな旦那さんね!うちのとは大違いだわ!」
奥さんの恵美さんは、あはははは、と恰幅の良い腹を揺らして笑った。親戚ではないので血のつながりがあるわけでもないのだが、なんとなく絵理の親戚知人関係の人達は明るく茶目っ気のある人が多いような気がしている。実際、絵理の妹の真理さんも、さっきから隅っこの方の席で別の親戚の人と談笑していた。声が大きいので何をしゃべっているか丸聞こえである。最近見た連続ドラマの話題で盛り上がっているらしい。話している相手は誰だろうか、随分若い女性達のようだが。
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