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気が付くと、僕らは地球から離れる船に乗っていた。
窓ともスクリーンともつかないものが、ひとつの光景を映し出す。
僕らがかつて暮らしていた世界が、燃え尽きようとしていた。
――地球と呼ばれた星の、最期。
「惑星の歴史がある程度まで進むと、非常に高い確率で“リセット”が起こるの。そうなる前に文明や生命体のサンプルを持ち出し、アーカイブするのが先生たちの本当のお仕事」
紅蓮の地獄絵図を指し示しながら、歴史の授業とまったく同じノリで高安先生が解説する。
曰く、暴走した大国の放った一撃がきっかけとなり、全世界規模の核戦争が勃発したそうだ。
なんと呆気ない最期だろう。
僕のお腹には、先程飲んだ紅茶の熱がまだ残っている。
それなのに、あの部室も、学校も、日本という国も、もう存在しないなんて。
「塚崎くんと三隅さんの生命は保証するから安心してね。少し窮屈な暮らしにはなるけど、できるだけ不自由はさせないから」
先生はそう言い残すと、壁ともドアともつかない燐光の奥に消えていった。
――ああ、先生。
先生とそのお仲間が、地球の宝を根こそぎ盗んだ犯人だったなんて、まだ信じられません。
でも僕、本望です。
こうして先生に盗まれたのだから。
部屋とも檻ともつかない場所にとり残された僕は、ふと、共に連れてこられた三隅さんの様子を伺った。
こんなことになって、怯えているだろうか。
あるいは、失ったものを想い、悲しんでいるだろうか。
彼女は――笑っていた。
「三隅さん?」
「ごめんね、塚崎くん。ずっと黙ってて」
「何のこと?」
「私、前から高安先生に推薦してたんだ。――この星のホモサピエンスの、つがいのサンプルを」
三隅さんの瞳は、かつて見たこともない淫靡な色をしていた。
普段とまったく別種の恐ろしさを感じ、僕は静かに戦慄した。
「――私と、塚崎くんの二人。地球最後のカップルとして、永遠に名前を刻むんだよ」
前言撤回。
僕を盗んだ犯人は、別にいましたとさ。
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