ナンシーは楽園にいる。

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ナンシーは楽園にいる。

「日本はもっと、戦後の歴史についても勉強するべきだと思うわけよ!」  学校からの帰り道。私と並んで歩きながら、ミキちゃんはぷんぷんと怒っていた。その背中には、彼女の小柄な背にはかなり重そうに見えるピンクのランドセルが揺れている。 「織田信長だとか、豊臣秀吉だとか、徳川家康だとか!そういう話も大事だとは思うんだけどさ。太平洋戦争のあとにも、日本にはたっくさん事件が起きてるわけ。そういうの、なんていうかショートカットしすぎだと思わない?まるで、第二次世界大戦とかそのへん終わったら、もう世界じゃ戦争がなくなったみたいじゃん!」 「え、社会の授業中ずっとそんなこと考えてたの?」 「考えてたー!だって教科書の割合おっかしーんだもん!」  変わり者で理屈屋。あんまり女子小学生らしくないとよく言われるミキちゃんが、私は結構好きだった。彼女の話は、いつも私に予想外の驚きを与えてくれる。学校に行くのが楽しい、とそう思わせてくれる理由の一つだった。  彼女とクラスメートでなかったら、世界平和、なんて小難しいことを考えたり議論しようだなんて思うことはなかっただろう。平和な日本の小学生としては、どうしても戦争だの侵略だのなんて話は遠い出来事のものであるからである。 「ミキちゃんは、正義感が強いだね。私、平和とかそういうの、頭ぐるぐるしちゃって全然考えられないや」  私が正直な感想を言うと、そんなんじゃないけど、とミキちゃんは言ってきた。 「あたしは別に聖人ってやつじゃないし?ただ……今は女子小学生だって、真剣に戦争と平和について考えなくちゃいけない時代に入ってるって思うわけ」  やけに赤くて不気味な色の空を見上げて、彼女は難しい顔をした。ぴょこん、と可愛らしいポニーテールが跳ねる。 「だって、世界のあっちこっちでさ。核兵器より威力が強い新兵器が開発されたとか、どこぞの国で実戦投入されたとかニュースが流れてるんだよ?日本のすぐお隣の国だって、それを使ってどこぞに戦争仕掛けるかもとか噂されてるじゃん。他人事だって思ってられるの、今のうちだとあたしは思うんだけどね……」
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