Episode. 凸凹コンビ誕生秘話【前編】

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Episode. 凸凹コンビ誕生秘話【前編】

 夏の茹だるような暑さの中、開かれた校舎の窓からは涼やかな海風が吹き抜ける。  授業終了のチャイムが鳴ると、静まり返った廊下には、途端に夏仕様のブレザーの制服に身を包んだ生徒達で活気あふれた。  短いスカートの裾を翻しながら女子生徒達が囁く。 「ねぇ! 今日も黒木君かっこよかったね!」 「だよね! でも、やっぱりまだ学校に馴れないのかな? 今日も一人だったよね」 「東京から来たんだもん。こんな田舎じゃねぇ……」 「でもさ? あの一匹狼な感じがまたよくない?」  わかるー! と黄色い声を弾ませる。  近頃、彼女達を含めた生徒達の話題といえば、この高校に来た季節外れの転校生の噂でもちきりだった。 「かっこいいし、黒髪サラサラだし、背だってうちの高校で一番高いし……? もう完璧~!」  話の輪の中にいる一人がそう言うと、もう一人が首を傾げた。 「でもさ、背の高さだったら地味崎の方が高くない?」 「あ、たしかに~って………、ないない!」 「理科専の神崎先生でしょ?確かに黒髪で背も高いけど、あれはないわ~」 「だって、地味だし。いつもヨレヨレの白衣だし。そもそも、ボサボサの髪と眼鏡で顔わからんし」 「地味崎の顔、見た人いるの?」 「なんか、みると呪われるらしいよ~」 「うわ、何それ。別に見たくもないけど」  だよねー! と声を揃えながら、彼女達は下駄箱で靴を履き替えさっさと校舎を後にする。  皆、明日から始まる夏休みに浮かれていた。  ただ、一人の生徒を除いてはーー……。
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