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2限目が終わった後、次の授業が始まるまでの休み時間。
蓮は机に座りながら折り紙を折っていた。
桐生小学校の6年生が修学旅行で長崎に行くのだ。
長崎の平和公園に千羽鶴を捧げるのだが、彼らだけではとてもじゃないがしょぼい数の鶴しか用意できない。
なのでこの時期になると小学校と中学校の全生徒が協力し、鶴を折るのが恒例なのである。
しかし蓮の頭には鶴なんてどうでもいいことと判断されていた。
手はまったく進まない。
意識しないようにしても、同じように机で鶴を折っている夏澄に目が行ってしまう。
あまりいいことではないのは分かっている、自分と彼女の関係がバレてしまうかもしれないからだ。
そこまでいかなくとも、自分が夏澄のことを好きだと噂されてしまうかもしれない。
性交によってかなり好意が傾きかけてはいるが、蓮には保育園から好きだった女子がいる。
初恋を蔑ろにするのは、一種の裏切り行為だと蓮は思っているのだ。
性交までして裏切りも何もないと思うが、真面目な彼はそう思っている。
「蓮くん!ちゃんと折ってる?」
「え?ああ……まあ」
「今までで何羽折ったの?」
「えっと……3羽かな」
「少なすぎるよ!私もう54羽折ったのに!」
「すごいねそれは、結衣ちゃん早い」
蓮のやる気のなさを咎めたのは、クラスメイトの結衣だった。
5人しかいないクラスを支える心優しき女子である。
少し口うるさいのが玉に瑕だが。
「蓮くんが遅いの!早く折って」
「修学旅行は9月だよ?まだ3か月もある」
「みんなで千羽折ろうって先生も言ってたでしょ?それに夏休みになったらどうせ蓮くん折り紙なんてしないんだから今のうちに終わらせておかないと」
「大丈夫だよ、そんなに急がなくて」
「そんなこと言って……いいからやるの!」
「わかったよ……」
渋々ながら蓮は普通よりも小さな折り紙を不器用な指で折った。
普通サイズの折り紙でも苦戦する彼が綺麗に折れるはずなどなく、完成した鶴は鶴というよりも浮浪者のボロ衣のようだった。
「なんなのそれ!?」
「鶴だよ、ほら羽だってあるよ?」
「なんでそんなによれよれになるの?きっちり折り目つけないから!」
「いいでしょ?鶴は鶴なんだから」
「ちゃんと作らなきゃ6年生悲しんじゃうよ!ほら私が見本見せるから!」
結衣はテキパキと折り紙を折って見せた。
蓮はぼうっと彼女の華麗な手つきを眺める。
20秒もしないで彼女は綺麗な鶴を折った。
蓮の鶴とは違い、ピンと羽も首も伸びて今にも羽ばたきそうだった。
「全部結衣ちゃんが折ればいいんじゃない?」
「またそんなこと言って!みんなでやるから意味があるの!」
「そうかなぁ……」
「私トイレ行ってくるから、その間に3羽は折っておくんだよ」
「無理だよぉ」
「無理じゃない!じゃあちゃんとやっておいてね!」
結衣は教室から出て行った。
蓮はまったくやる気がなかった。
だが言われたとおりにやらないと怒られてしまうので、嫌々ながら小さな折り紙を2本指で挟む。
折る前に夏澄のことが気になった蓮は、ふと彼女のほうをチラリと横目で見てみた。
「順調?」
「おわっ!」
動揺で蓮は椅子から転げ落ちそうになった。
先ほどまで机にいた夏澄が、自分のすぐそばまで迫ってきていたのだから。
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