別に蓮くんのことは好きじゃないよ

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蓮はじっと夏澄を見た。 夜でも分かる鼻まわりの濃いそばかすがはっきりと見てとれる。 「先生たちも暴力振るってるんだよ?ここが許される場所だからって……いい歳こいて何やってんだろうね。まあ……この島に飛ばされた時点で大した教師じゃないことは知ってるけど」 「そういう言い方はよくないよ」 「じゃあ蓮くんは先生たちや……パパのこと好きなの?」 「好きって言われたら……答えに困るけど」 拗ねたように顔を伏せる蓮を見て、夏澄は顔をしかめた。 こづくように彼の肩にパンチする。 「なに?」 「別に」 「まあ……俺もバレーは別に好きじゃないよ。好きじゃないことして殴られるのも好きじゃない。でもしょうがないよ。バレー部は伝統なんだから。島のOBたちもみんなバレーをやってきた。俺たちもやらなきゃ」 「その考えが嫌なんだよ。バレー部が伝統だからってなんで私たちまでやらなくちゃいけないの?この島になんの恩もないのに」 「この島で育ってるじゃないか」 「私ここで過ごしたいなんて言ったことないのに?勝手に田舎に生んどいて島の伝統に従えなんてどう考えたっておかしいよ。強制的に部活に入れられて暴力を振るわれる……なのにそれが正しいと島の人間はみんな思ってる。ほんと馬鹿しかいないよここは」 「……バレー嫌いなの?」 「え?当たり前でしょ」 「好きなのかと思ってた」 「はぁ?マジで言ってる?」 「だって夏澄ちゃんエースだし、好きだと思ってた。へえそうなんだ、知らなかった」 気の抜けた声で言う蓮を見て、夏澄はため息を吐いた。 同時に間抜けな彼の顔がなんだかおかしくて、少しだけ頬が緩む。 「……子供だね、蓮くん」 「まだ中学生だよ」 「……まあ上手くても好きとは限らないってことだよ」 「そうなのかぁ……夏澄ちゃん上手なのに」 「だいたい私がエースなのも私の実力だけじゃない」 「え?どういうこと?」 「……パパのおかげってこと」 「ん?どういうこと?」 「はぁ……分かるでしょ?パパは十年以上バレー部のコーチをしてたの」 「だから?」 「学校でも偉そうに出来るの」 「……だから?」 「もう……だから自分の娘をいいポジションに置けるんだよ。そのおかげで私は2年生がいるのにエースになれたんだ」 「へぇ、そうは思えないけどな」 「……どうして?」 「夏澄ちゃんすごく上手だもん。2年生より上手だと思うよ」 夏澄は照れたりしなかった。 ただ不機嫌そうに鼻に皺を作る。 そばかすが密集して、さらに濃く見える。
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