5人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
救急車がやってくるほど大騒ぎになったが、宗一は時間が経つとむくりと起き上がった。
頭痛を訴えていたので、その日はもう帰ることになる。
連絡を受けた母親もやってきていたので、その車に乗って診療所に向かった。
島の診療所が開いているのは17時までなのでとっくに閉まっているが雄大が手配してくれて医師が診てくれるそうだ。
こういった融通の利くところは田舎のいいところかもしれない。
もう部活を続ける雰囲気でもないので、今日はもう解散になった。
女子バレー部はまだ続けるようで、蓮たちが体育館を出ても高く勇ましい声が聞こえてくる。
宗一のことは残念だが、早く終わったことに喜ぶ部員たちは今から何をするか話しあっている。
「どっかで遊ぼうぜ、野球するか?」
「ああ、俺パス」
ミナトの提案にカイリは軽く断りを入れた。
「なんでよ」
「早く終わったしまりなと会ってくる」
カイリはニヤニヤしながら体を伸ばした。
まりなというのはカイリの彼女で、3年の女子だ。
もう引退していて、今は受験勉強に精を出している時期である。
「おおい本気かよ?俺たちより彼女取るのか?」
「当たり前だろ。またあそこでセックスしようかなぁ~」
まわりの人間を刺激するようなことをカイリを言った。
思っていたとおりのそわそわした雰囲気になったのでカイリは満足する。
ここにいる男子のほとんどが童貞なので、悲しいかなこの手の話には嫌でも反応を見せてしまうのだ。
「がっはっは!」とひと昔前の漫画の悪役のような笑い声を出すカイリはのしのしと帰っていった。
ミナトは不機嫌そうに見送る。
「ちっ……なんだよあいつ……お前ら遊びに行くぞ」
「あ、俺もちょっと無理……」
蓮は手を小さくあげて断りを入れる。
「はぁ?なんで?」と詰め寄ってくるミナトに及び腰になった。
「家の手伝いがあるんだよ……お父さんの日曜大工の手伝いするように言われてるんだ」
「俺たちと遊んだ後にやればいいじゃん」
「いや……それは」
「早く終わったんだからいいだろ」
「いや……」
「おい、帰してやれよ」
「あ?」
ユウマがかばうように蓮とミナトの間に割って入った。
ミナトはさらに興奮する。
「なんでお前がかばうんだよ!」
「用事があるって言ってんだろ、蓮。行っていいぞ」
微笑みを見せられて、蓮は頷いた。
ミナトは舌打ちをして、「もういい!」と言って1人で学校から出て行った。
「ったく……最近ますますひどくなってるなあいつ」
「雄大さんが甘やかしすぎなんだよ、カイリはまぁ……あいつは上手いからしょうがないけど、ミナトなんて大して上手くないのに」
「まぁ……親戚だからな、親も仲いいし」
「やってられねぇよな、今日の試合もあいつキレてたし」
「しょうがないよ、なんとか頑張っていこうぜ」
無理やり余裕ぶった笑みを作ったユウマを見て、ショウゴは顔を伏せた。
なんとなく気まずい空気が流れるが、誰もショウゴを咎めたりしない。
「で?どうする?蓮は無理としてほかのやつらはどっかで遊ぶか?」
「遊ぼう!釣りがいいな」
「大和、また釣りか?」
「カードがいいんじゃないか?この前パック買ったらいいカード当たったんだよ」
「え?なんのカード?」
「それは見てのお楽しみだ!」
一同カードゲームで遊ぶことが決まったようだ。
一旦自分の家にカードを取りに帰って、公民館に集まることに決まった。
蓮は途中まで一緒に友人と帰って、そして分かれ道で別れた。
最初のコメントを投稿しよう!