次いつやるか決めた?

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友人たちの姿が見えなくなって、蓮は立ち止まった。 このまま帰るかどうか考えたのだ。 夏澄との約束があるから彼は学校に戻らなくてはいけない。 しかし男子だけ早く終わってしまった、女子が終わるまであと1時間くらいある。 そこらを散歩してもいいが、暇つぶしにはならないだろう。 家に帰ってシャワーでも浴びるべきかな、なんて考えていると後ろから足音が聞こえた。 振り返ってみると、1人の年配の男性が芝刈り機を肩にかついでゆっくりと歩いてくる。 最近はあまり見ることは無くなったが、あの男性には小さい頃よく怖がらされたものである。 蓮が保育園のときからまったく見てくれも行動も変わらない。 芝刈り機を持ち、唾液を首の手ぬぐいに垂らし、亡者のように歩いているのだ。 家の近くの農家の家のおじいさんだということは知っているが、話したことがない。 というか話せるか分からなかった。 いつも生気のない目をしていて、彼が話しているところなど見たことがないからだ。 だがもう蓮も中学生だ。 体も大きくなったし、恐怖にも耐性が出来ている。 いきなり襲い掛かられても対処できるはずだ。 芝刈り機の電源を入れられたら全力疾走で逃げる気だったが。 別にやることもないので蓮は突っ立ったままおじいさんがこちらに向かってくるのを待った。 おじいさんは蓮には目もくれず、ただ前方だけを見て歩いている。 「こんばんは」 目の前を通りすぎるおじいさんに蓮は挨拶をしてみたが、返事はなかった。 おじいさんは牛のような歩みで前進する。 よたよたと歩いているおじいさんの背中を蓮が見送っていると、石につまづいたのか、おじいさんは転倒した。 蓮はかけよって、安否を確かめる。 「大丈夫ですか!?」 おじいさんは唾液を地面につけて、ゆっくりと立ち上がろうとしている。 蓮はそれを手助けした、彼の体に近づくと濃い土の匂いがした。 「家まで送りますよ」 おじいさんは何も言わない。 またゆっくりと歩き出す。 蓮はどうしたものかと迷ったが、時間つぶしも兼ねておじいさんと一緒に歩く。 横にならんで、夏の午後の空気を感じる。 2人の間に会話はなかったが、別に気まずさは感じなかった。 冷めてきた空気を吸い、カラスの鳴き声を聞く。 しばらく歩くと、おじいさんの住んでいる大きな家に着いた。 蓮は彼を玄関まで送って、「さようなら」と言った。 おじいさんはじっと蓮を見る。 蓮も彼の目を見つめ返した。 おじいさんはよたよたと納屋のほうに向かった。 蓮は立ち去ることもせずにその様子を見守る。 別に理由なんてない、あるとしたら暇だからだ。 おじいさんはまったく自分のペースを崩さす歩き、芝刈り機を置いた後は玄関から家の中に入っていった。 数分そこに立って、何も起こらなかったので蓮は離れようと踵を返す。 ガラガラと引き戸の玄関が開いた。 玄関からはおぼんを持ったおじいさんが出てくる。 おぼんの上には湯呑と饅頭が2個乗せてあった。 「……くれるの?」 おじいさんは笑った。 多数の皺のせいで表情が分かりにくいが、確かに頬が緩んだ。 「ありがとう」 蓮はお腹が空いていることもあり、饅頭をすぐに平らげて湯呑に入っている水も飲みほした。 あんこ饅頭はとても美味しかった。 「転ばないように気をつけてね、俺もう行くから」 おじいさんは頷いた。 そして家の中に戻って、引き戸を閉めた。 饅頭の味に気をよくした蓮は、鼻歌を歌いながら学校に戻り始めた。
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