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学校の近くまで戻った蓮は、女子部員たちの声に耳を澄ました。
体育館の明かりはまだついており、女子たちの練習の掛け声も聞こえてくる。
「やっぱりまだ早いね……」
蓮は道の隅っこに座りこんだ。
筋肉痛の腕と脚を撫でて、考え込んだ。
夏澄のこと、部活のこと、友人のこと、この島のこと……。
こんなに何かを考えるのは初めてかもしれない。
だがどうすることも出来ないのも分かっていた。
自分がどれだけ抵抗しても、部活からは逃れられない。
命の危機というわけでもないのに、彼は考えてしまう。
遊びまわって好きに生きることが出来た小学生から中学生のなりたての彼にとっては、部活と学校が世界の全てなのだ。
きつくてやりたくもない部活、望んでいない暴力。
逃げ出すことは出来ない、物理的にも精神的にも。
急にこの世界が窮屈になったと、蓮は感じ始めてしまう。
今までは大人たちの言うことを聞いて生きることに何の疑問も抱かなかったが、確かな自我がひこばえとなり生まれてきたのだ。
「……夏澄ちゃん」
不自由だということを理解しても、打開できる方法など彼には思いつくはずもない。
それゆえ縋りたかった、誰でもいいからその体に寄りかかりたかった。
今蓮が思いつくのは親でも友人でもなく、たった1人の少女、夏澄だった。
大して仲良くしていたわけでもないのに、急に自分に近づいてきた彼女……。
彼女のことを四六時中考えてしまっている。
「……どうしてだろう?」
蓮はふと疑問を抱いた。
夏澄がなぜ自分を誘ったのかという疑問だ。
なぜ自分が選ばれたのか?
肉体や顔で優れているカイリやユウマ、ショウゴなどもいるのになぜ自分なのか。
同年代と交わりたかったのか、本当にセックスが好きなだけなのか。
どれもしっくりとこない。
蓮の幼い観察眼が今培われていく。
自分で考えて、答えを出すという力が成長していく。
「なんで……俺なんだ?」
蓮は分からなかった。
恋も乙女心も一切と言っていいほど知識がない蓮には当然のことだ。
彼はまだ子供なのだ、何も知らぬ無知な男の子……。
考えすぎて彼の頭は痛くなっている。
同時に睡魔も襲ってきた。
日々の運動で疲れ切った体と、思考により消費した脳みそが休息を求めている。
蓮は目を瞑った、そして体育座りのまま道端で眠った。
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