次いつやるか決めた?

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「……まずい」 蓮は素早く立ち上がって空を見た。 夕暮れが薄い夜に変わっている。 寝過ごしてしまったのだ。 時間を知りたいが彼は時計など持っていない。 急いで学校に向かうことにした。 全速力で体育館を目指す。 もう練習する声もボールの跳ねる音も聞こえない。 建物の光も無くなっている。 ダッシュで体育館前まで来て、蓮はキョロキョロとあたりを見回した。 もちろん誰もいない、校舎のほうは残っている教師がいるがここまではこないだろう。 「か、夏澄ちゃん?」 蓮は彼女の名を呼んでみた、返事はない。 「はぁはぁ……帰っちゃったか……」 蓮は段差に座り込んだ。 走ったことで息が乱れ、頬にも薄く汗が浮かんでいる。 「悪いことしちゃったな……」 蓮は夏澄の言葉を思い出した。 「部室でやろう」という言葉だ。 「……鍵が開いてるとか?」 蓮は微かな期待を胸に体育館の正面に立った。 入口に手をかけてみる、そして横に押した。 体育館は開かない。 「そりゃそうだよね……あ」 蓮は体育館の側面に回り込んだ。 窓から入れるかもしれないと思ったのだ。 体育館の窓は割れないように内側に鉄格子があるが、格子がついていない窓もある。 体育倉庫と部室の窓だ。 蓮は体育倉庫のほうの窓を確認した、その窓は高いところにありジャンプしても手さえ届かないだろう。 なので部室のほうの窓を観察した。 ジャンプしてぎりぎりという場所に窓はあるが、幸いにもここはスロープになっていて手すりがある。 手すりに乗れば届くだろう。 蓮はバランスを取りながら、手すりの上に乗った。 ふらつく体をなんとか制御する。 そして壁に左手をつけて、右手で窓を触った。 蓮は正直、窓は開かないと思っていた。 部活が終わるとみんなすぐに帰り支度を済ませて体育館を出るので、窓を開けるという習慣がない。 それに開いたとしてももう女子の部活が終わって30分ほど経っている。 夏澄が待っているはずがない……。 蓮は自分の愚かさを呪った。 せっかく彼女が会う機会を作ってくれたのに、応えることが出来なかった。 だがそれでも……蓮は淡い期待に縋りたかった。 蓮は祈りを込めて窓に触れる手に力を入れる。 窓は「キキィ」と音を出しながらもゆっくりと開いた。 蓮は唾を飲んで、両手で体を支える。 そして不格好に部室の中に体を乗り込ませた。 もたつきながらも彼は部室の中に入った。 入るときに体の色んな箇所を打ったり擦ったりしたので痛みを感じる。 念のため窓をきちんと閉めた蓮は、電気もついていない暗い室内で彼女の気配を探す。 「夏澄ちゃん?いるの?」 蓮は歩き出した。 室内だということを思い出して靴を脱ぐ。 男子と女子の部室は入口が同じで、構造的に隣り合わせで繋がっている。 蓮は男子部室を出て、女子の部室に入った。 心臓が動く、ここには自分の気配がない。 彼女がいるはずがない。 それでも彼は期待していた。 夏澄が自分を待っているのではないかと。
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