私のこと好きになったらダメだよ

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島から船で30分かけて港に行き、そこからコーチと監督ともう1人の教師の車に男子部員たちは乗って練習試合会場に向かう。 蓮は寝ぼけ眼で窓の外を眺めていた。 ここから練習試合を行う中学校まで1時間はかかる。 蓮はコーチの車の中でモサモサとコンビニで買ったサンドイッチを頬張っている。 「蓮」 「……はい?」 「勉強ははかどってるか?」 コーチに質問されたが、蓮はポカンと口を開けた。 試合の日は朝1番の船の時間に間に合うように6時に蓮は起きる。 眠気のないときでものんびりと回転する脳みそは、雄大の言っていることを理解できなかった。 意思に反して漏れてしまうあくびを手のひらで隠して、半分しか開いていない目で蓮は聞き返す。 「勉強……なんのことです?」 「あ?夏澄に教えて貰ってんだろ?」 「……え?」 「え?」 雄大も蓮も一緒に首を傾げた。 蓮は目をぱちくりと動かして、鈍い頭を必死で動かす。 「なんだ?寝ぼけてんのか?」 「え……ああ、なんでしたっけ?」 「だから夏澄に勉強教えて貰ってんだろ?電話で言ってただろうが」 「ああ……」 そこでようやく蓮は思い出した。 蓮は慌てて嘘の言い訳を考える。 「え、えっとですね。ええそうです。順調ですよ?学力もあがってますし、次のテストではいい点とれると思います」 「おお、じゃあ次のテストの点数教えろよ」 「そりゃもちろん」 ふにゃりと愛想笑いを浮かべた蓮の横に座る宗一がぼそりと呟く。 「蓮くん……夏澄ちゃんに勉強なんて教えてもらってないですよ」 「え?」 蓮はドキリとした。 動揺を表情に浮かべて宗一の顔を見る。 宗一は冷めたような、見下したような目をしてた。 「なんだ?教えてもらってないってどういうことだ?」 「僕、蓮くんと夏澄ちゃんが一緒に勉強してるところなんて見たことないですよ」 「あ?どういうことだ蓮」 蓮は宗一を少し恨んだ。 宗一は蓮から目を逸らし、前だけを見ている。 「いや……そんなことないですよ。ちゃんと教えて貰ってます」 「いつ?」 「昼休みとか……」 「どこで?」 「と、図書室とか」 「ふーん、見たことないけどね。2人きりで?」 「そ、そうだよ?」 宗一はもう1度「ふーん」と言って口を閉ざした。 嫌な汗が蓮の背中に流れる。 どうして早朝からこんな目に遭わなくてはいけないのか。 「お前、夏澄と付き合ってんのか?」 朝食の弁当2つとアメリカンドッグとおにぎりを食べ終わったカイリがからかうように言った。 ミラーに写る雄大の眉間に濃い皺が出来る。 「なに?そうなのか?」 「そ、そんなことあるわけないじゃないですか!夏澄ちゃんと付き合ったりしてませんよ!」 「パニくるなよ、からかっただけだ」 カイリはゲラゲラと笑った。 雄大と宗一と蓮は笑っていなかった。 「ほ、ほんとだよ。夏澄ちゃんには勉強教えてもらっただけ……第一夏澄ちゃんは……俺と付き合ったりしない」 「どうして?」 目に力がこもっている宗一は咎めるような口調で聞いた。 蓮は夏澄との性交と自分たちの関係の歪さを思い出した。 蓮は彼女と交わった、気持ちのいいこともたくさんした。 だがそれは恋ではない、彼女も自分とは付き合う気がないことを明言している。 それは蓮もだった。 蓮には恋しく思う女性がすでにいる。 夏澄と体を重ねてもその気持ちは変わらない。 彼女の部屋で一緒の時間を過ごした時から、もう2人は純粋な友人ではなくなった。 互いに恋心が芽生えればどれだけよかっただろう。 だがそうはならなかった。 蓮は自虐的な笑みを静かに浮かべて、語を次いだ。 「夏澄ちゃんは優しくてかわいい女の子です。俺にはもったいない……」 「おう、お前もなかなか言うな蓮」 カイリが蓮を茶化す。 宗一と蓮は黙った。 雄大は照れくさそうな顔で、少しだけ微笑む。 「お前もなかなかいい顔してると思うぞ。ボケッとしてるけどな、次のテストは絶対見せろ。俺の娘に教えて貰っといてまた20点なんて取りやがったらグーで殴るからな」 「え?ええ……な、殴られないように頑張ります」 「おう、しっかり勉強しろ!」 晴れやかな顔でハンドルを操る雄大は、窓を開けて煙草を吸いだした。
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