私のこと好きになったらダメだよ

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試合が終わり、疲れ切った体は船に揺られる。 蓮たちは最終の船の便に乗り、島へ帰る途中だ。 この日は蓮も試合で活躍し、数々の結果を残すことが出来た。 雄大に殴られずに済み、何度もお褒めの言葉ももらえた。 確かな充実感を、初めて蓮はバレーボールという競技で勝ち取ったのだ。 蓮は船の最上部で、1人ベンチに座っていた。 潮風にさらされるこの場所は、海がよく見える。 元来船酔いしやすい性質の蓮は、船に乗るとき必ずここに来る。 暗い空と暗い海を見ながら、島までの到着までの時間を潰す。 金属やペンキの独特の匂いを嗅ぎながら、蓮はうつらうつらと船を漕ぐ。 この日が終わった安心感、疲労が今になって襲ってきたのだ。 半分寝ている蓮の横に、誰かが腰掛けた。 ふと横の見てみると、学校指定のジャージを着た夏澄が座っている。 「……え?夏澄ちゃん」 「おはよう、寝てた?」 「いや……寝てないけど、なんでここに?」 「女子も試合だったから」 「へぇ、そうだったんだ」 この場には蓮と夏澄、2人しかいない。 思いもよらぬ再会に、蓮の心が温まる。 目も覚めて、夏澄との物理的な距離を縮めた。 「近いよ」 「ダメ?」 「いいよ」 「ありがとう」 「それで、今日男子試合はどうだったの?」 「うーん勝ったり負けたりだったけど、けっこう俺は活躍できた」 「試合出たの?」 「うん、雄大さんが出てみろって」 「……そっか、叩かれたりしなかった?」 「ううん、今日は叩かれなかった。聞いてよ!俺今日アタック打ったんだ!それでね、何点も取れたんだよ?何回か失敗したりブロックされたりしたけど……」 「ほんと?よかったじゃん」 「うん!雄大さんも監督も褒めてくれた!」 「すごいよ蓮くん!成長したね」 「えへへ」 蓮は頬を赤く染めて照れた。 夏澄も蓮の活躍を素直に喜んで微笑んでくれた。 「じゃあご褒美あげなくちゃね」 「ご褒美?」 「セックスしよってこと」 「そ、それは嬉しいな」 「そろそろ動揺するのやめたら?」 「す、するよ。でも……ここでするの?」 「するわけないでしょ?誰か来るかもしれないし」 「だ、だよね」 「うん、でいつする?」 「明日……とかは?」 「いいよ、でも女子午後練あるからその後からね」 「わかったよ」 「どこでやりたいとかある?また部室?」 「そうだね……あっ!」 蓮は宗一と大和が話しているのを思い出した。 カイリとまりなが廃屋でセックスしたことを。 「ちょっと、行ってみたいところがあるんだけどいいかな?」 「え?どこ?」 「神田さんの家の近くに誰も住んでいない家があるんだよ、そこで……やってみない?」 「あー……あそこね。いいけど、汚くない?」 「そうなのかな?」 「まあいいや。明日はパパも遅くまで帰ってこないし。じゃあ17時にあそこ集合ね」 「わかった!やったね!」 「喜んじゃって」 夏澄は軽く「ふふ」と笑った。 蓮は立ち上がり、ちょっとだけためらいながらも彼女の手を握る。 「海見ようよ……一緒に」 「いいけど、真っ暗でしょ」 「それでもいいじゃないか」 蓮と夏澄は手すりに腕を乗せて、黒い海を眺めた。 もちろん海の美しさなどは堪能できない。 寒い風と波の音を感じるだけ……。 「俺、海が好きなんだ」 「そうなの?」 「釣りが好きってこともあるけど、海を見てると心が穏やかになる気がするよ」 「そう、よかったね」 「俺は島で生まれてよかったと思ってる」 「そう、よかったね」 「……怒ってる?」 夏澄は一瞬動揺した。 小動物のような不安げな顔をしている蓮が愛おしくなり、その唇を奪う。 音を立てて、舌を絡ませる。 蓮のあそこがちょっとだけ大きくなった。 「人の顔色伺えるようになったんだ」 「そんなんじゃないよ……ただ夏澄ちゃんが怒ってるんじゃないかと思って……」 「どうして?」 「夏澄ちゃん、島が嫌いなんでしょ?」 「そうだね、嫌いだよ。でも蓮くんは好きなんでしょ?そう思ってるんならいいんじゃない?私が嫌いとかどうとか関係ないよ」 「……君に嫌われたくないんだ」 「……私は蓮くんのこと嫌いになったことないよ」 「ほんと?」 「うん」 「……俺のこと好きなの?」 夏澄は手で口を押えて嫌らしく笑った。 「もう行くね、誰かに見られたら面倒だし」 夏澄は蓮に背を向けて、みんなのいる場所に戻ろうとしている。 蓮は彼女を行かせたくなかった、だからその手を強く握る。 「……もう行くの?」 「うん」 「もうちょっとお話しようよ」 「ダメ、明日会えるでしょ?」 「けど……」 「私のこと好きになった?」 「……分からない」 「じゃあダメ、それに蓮くんアカネさんのことが好きなんでしょ?セックスくらいならいいけど、私のこと好きになったらダメだよ」 「どうして?」 「どうして?うーん、どうしてだろうね」 「ね、ねえじゃあ今日……一緒に釣りしようよ。みんなで集まる約束してるんだ」 「やだ、その話は断ったでしょ?」 「……意地悪」 蓮の言葉に夏澄は肩を震わせて笑った。 ひとしきり笑った後、彼女は振り向きウインクする。 「明日、楽しみにしてるね」 「俺もだよ」 去っていく彼女の後姿に、蓮は手を振って見送った。
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