私のこと好きになったらダメだよ

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「蓮くん、それでどうすればいいの?」 「え?ああ……あそこに浮いてるのがあるでしょ?あれが沈んだらリールを回して。釣り竿にも重さが伝わるから分かると思うけど」 「そっか、その間はどうするの?」 「じっと待つんだよ」 「じゃあその間何か話そうよ」 「……え?」 「ん?」 「いや、そうだね。話そうか暇だし」 「もう!眠たいの?」 「そんなことないよ」 蓮は予定通り港に釣りに来ていた。 大和とユウマとタケルは離れた離れたところで釣りを楽しんでいる。 釣りを教えるという約束を交わした結衣に、蓮はのんびり釣りを教えているのだ。 「今日の試合どうだったの?」 「うん、試合にも出たしアタックも決めたよ?」 「へぇ!すごい!やるじゃん!」 「ありがとう結衣ちゃん、結衣ちゃんはどうだった?」 「私はミスばかりだよ、女子は6人丁度しかいないしね。全部の試合出なきゃいけないから」 「大変だね、女子は」 「私背も低いからアタック打てないでしょ?だからレシーブ専門なんだけど……あはは、レシーブも下手くそなんだよね」 「そうなの?」 「『そうなの?』って、隣で練習見てるでしょ?」 「見る暇ないよ、俺たちも厳しいし」 「まあそっか、はぁ~。今日も3回ビンタされたし、嫌になるよ」 「本村先生に?」 「うん、痛いんだよね」 「そっかぁ、大変だね」 「ちゃんと聞いてる?」 「え?」 「気の抜けた返事だもん」 「ごめん、怒ってる?」 「怒ってない!疲れてるの?」 「いや疲れてるっていうより……まあ疲れてるかな」 「なんなのそれ?」 結衣は鼻で笑って、海を見渡した。 無気力になった蓮、原因は夏澄にある。 明日が待ち遠しいのだ、夏澄との触れ合いを心の奥底から求めてしまっている。 大好きな釣りが、なんだから味気ないものに思えるほどに。 「あっ!引いてるんじゃないこれ!どうすればいいの!?」 どうやら結衣の釣り竿に魚がかかっているようだ。 蓮は落ち着いて彼女に指示を出す。 「リールを巻いて、そうすれば釣れるから」 「う、うん!」 あたふたしながらも結衣は指示通りリールを巻いた。 海中に沈んだ糸が手元に戻ってくる。 確かな重量を引き上げて、魚は空中に顔を出した。 釣り針が引っかかって身動きが取れず、必死に体を動かして人間の手から逃れようとしている。 「釣れた!蓮くん釣れた!どうすればいいの!?」 「魚を取ってバケツに入れるんだよ」 「と、取るってどうやって!?蓮くんやって!」 蓮は手慣れた手つきで針から魚を取り出し、バケツに入れた。 「釣れたよ蓮くん!」 「うん、おめでとう」 「初めてやったけど面白いね釣りって!」 「気に入ってもらえて俺も嬉しいよ」 「この魚なんて言うの?」 「ブリだね」 「珍しいの?」 「あんまりは珍しくはないね」 「なんだぁ、でも楽しいね。また一緒に釣りしようよ。別の日に」 「うん、いいよ」 「ふふ、ありがとう」 結衣は釣り針を海に投げた。 穏やかな黒い海面を眺めながら、蓮は小さくため息をつく。
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