綺麗な部分だけ見てればいいのに

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綺麗な部分だけ見てればいいのに

夏休みも間近になった。 長期休暇に入る前に、学生たちにはやることがある。 期末試験だ、試験期間は部活も休みになり学生たちは勉学に力を入れることになる。 例外に漏れず蓮もその1人だ。 教師が教えてくれた試験の範囲を見返して勉強する。 楽しい昼休みでさえノートと教科書を開いて知識を頭に詰め込んだ。 「蓮ちゃん、なんで勉強なんかしてんの?グラウンドでサッカーしようぜ」 「ごめん、ちょっと勉強しないといけないから」 「なんだよ、試験勉強?また仲良く赤点とろうよ」 珍しく自主的に勉強している蓮を大和は不思議がる。 蓮は曖昧な返事をしてノートにペンを走らせた。 「もうユウマくんとか宗ちゃんたち先行ってるよ?」 「俺は行けないって言っておいて」 「ミナトくん怒るよ?」 「別にいいよ、とにかく行けないんだ……その、親に次のテストの点数悪かったら部活終わりに遊ばせないって言われて」 「それはまずいね、夜釣りが出来なくなっちゃう」 「そうなんだ、だから必死なんだよね」 「そういうことならしょうがないね、俺としてもそれは困るし。じゃあみんなには言っておくよ。分からないところがあったら俺に聞けよ」 「ヤマちゃんに聞いたってしょうがないよ」 「なんだとこの!」 大和は軽く蓮の頭に拳をグリグリ擦り付けた。 そして軽く笑って教室を出ようとする。 「あっそうだ!俺たちすごい体験したんだよ」 「なに?」 「あの廃屋に行ったんだ、エロ本も見つけたよ」 「ほんと?よかったね」 「蓮ちゃんの分もこっそり持って帰ってきたから、今度渡すよ」 「あはは、ありがとう」 「今度一緒に行こうね、でもおじいさんが見張ってるから静かにばれないように」 「分かった。行くとき声かけてよ」 「おう!」 大和は颯爽とみなが待つグラウンドに向かう。 蓮は気を取り直し、勉学を再開する。 だが普段やっていない慣れないことは、脳の吸収が遅いようで蓮は何度も唸った。 教科書に書いてある事柄がいまいち理解できないのである。 蓮が文字の羅列に悪戦苦闘していると、音もなく夏澄が教室の扉を開けて入室してきた。 夏澄は蓮のほうを見もせずに自分の席に座る。 机から取り出した文庫本を開き、静かに読書を始めた。 蓮も昨日のことがあり、声をかけづらかった。 黙って勉強に取り組む。 「今誰もいないよ?」 黙々と古文の内容を読み解いていると、ふいに彼女から蓮は声をかけられた。 夏澄は文庫本から目を逸らそうとしない。 「……うん、そうだね」 「なんで勉強してるの?」 「いい点数取りたいんだ」 「珍しいね、お母さんに言われたの?」 「ううん、その……雄大さんに」 「……パパに?」 夏澄は整った顔を崩して、本から目を離し蓮を見つめる。 今度は蓮が教科書にかぶりついているので視線は交差しない。 「どういうこと?」 「いや……別に何もないよ」 「何もないわけないでしょ、ちゃんと言って」 きつい声色で問われて、蓮は白状する。
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