綺麗な部分だけ見てればいいのに

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放課後、蓮は家に帰って勉強をしようとしたがショウゴに腕を掴まれた。 勉強をするからと断りを入れた蓮だったが、強引に彼に連れて行かれてしまう。 「部活休みだし、たまにはじっくり話そうぜ!」というのが彼の言い分だ。 仕方がないので蓮はショウゴに付き合った。 メンバーはショウゴ、蓮、大和、宗一、タケルだ。 5人は学校から少し離れた石造りの階段に尻を下ろす。 夕方の日を浴びながら彼らは緩やかな風を感じた。 「なんだよショウゴくん、何話すの?」 「落ち着けよ大和、ちょっと大人の話をしようと思ってな」 「勘弁してよ。俺たちはいいけど蓮ちゃんは次のテストでいい点取らないとやばいんだよ。放課後遊べなくなる」 「そうなのか?」 「うん、まあね」 「そりゃ悪いことしたな」 「ショウゴ、蓮は帰してやれよ。釣りが出来なくなったら俺も困る」 タケルは蓮のことを考えて発言する。 しかしショウゴは聞く耳持たないようで依然ニヤニヤとしていた。 「まあすぐ済むから聞けよ、めっちゃすごいことなんだ」 自信満々にショウゴは言い切った。 だが聞き手の反応は悪い。 こういう切り出し方のショウゴの話はだいたいしょぼいことを知っているからだ。 大したことのない自慢や面白くもない話をすることをみんな知っている。 だが話を進めなければ蓮が帰れないことを悟っているタケルは話の続きを促した。 「聞いてやるから言えよ」 「……お前ら彼女いないよな?」 「あん?ああ、だから?」 「そうだよな、ここにいる全員彼女なんているわけねぇ」 「馬鹿にしてんのか?」 「待てよ、俺だってそうだ。でも……彼女を作るよりやばいことやったんだよ俺は」 「やばいことって?」 ちょっとだけ興味が湧いた大和が聞く。 女絡みの話になるとつい反応してしまうのが思春期男子の性なのだ。 「まあそう急かすなよ、話は変わるがお前ら女のおっぱい見たことあるか?」 「は?」 タケルが不機嫌な反応を返す。 にやつきながらショウゴは自分の乳を盛り上げた。 「おっぱいだよおっぱい。見たことあんのか?」 「お母さんのなら見たことあるけど……」 「気持ちの悪いことを言うな!」 強く言われた宗一はシュンとなる。 それに構わずショウゴは話を続ける。 「女のおっぱいってのはよ。いいもんだぜ?こう……柔らかいからな」 「そのくらい知ってるよ」 「触ったこともないくせにか?」 「さっきから何なんだよ、お前彼女が出来たのか?」 「だからちげぇって!人の話聞かないやつだな」 短気なタケルはこの時点ですでにイライラしていた。 眉間がどんどん寄っていく。 「はっきり言えよ!なんなんだ!?」 「いやな、俺も言うかどうか悩んだんだよ。何週間もな……俺が随分前に部活休んだ日あったろ?」 「え?あったかなぁ?」 「あったんだよ、でそのときにな。俺親戚の兄ちゃんに店連れてってもらったんだ」 「なんの店?」 「いやな?俺の兄ちゃんけっこうワルでさ、わりとヤクザとも付き合いがあるらしんだよ」 「だから?」 「だから……そういうエロい店とかたくさん知ってんだよな」 「え?……お前行ったのか!?」 怒りが芽生え始めていたタケルの顔色が変わり、ショウゴの話に食いついた。 愉快そうにショウゴは笑う。 「その通り!その兄ちゃんに連れて行ってもらったんだ!」 「うそだぁ、だってショウゴくん中学生だよ?未成年だからお店に入れてもらえないよ」 冷静に宗一が指摘するが、その声はどこか上ずっている。 「普通の店はそうだろうな、だけど俺が行ったのは……フィリピンパブだ」 「ふぃ、フィリピン?」 馴染みのない言葉に一同の言葉が止まる。 分かっていない男子たちにショウゴは店の説明をしてやった。 「フィリピンパブって言うのはよ、フィリピンの女がサービスする店だ。まあフィリピンだけとは限らないって兄ちゃん言ってたけど……で兄ちゃんの知り合いが経営してる店で表向きには飲食店らしいんだが……でもまぁそこは裏の仕事ってやつか?その店の女はエッチなことしてくれるんだ!すごいだろ!?」 「すごい!」 「だはは!だろぉ!」 「それでお前……エロいことしたのか?」 「ああ、兄ちゃんの親戚ってことで特別にな。個室でやったよ」 「すげぇ!童貞卒業だ!」 大和はキラキラした尊敬のまなざしでショウゴを見た。 蓮が彼のこんな輝いた目で見るのは初めてである。 「まあな!だからもうお前らとはランクが違うんだよ!カイリたちともな!俺はプロのアソコで卒業したんだ!!」 しばらくの間、タケルたちはショウゴを崇めていた。 ショウゴもすっかり気をよくして、「先生には言うなよ?」なんて得意げに言っている。 だがその男子の中で1人だけ浮かれていない人間がいた。 蓮である。 もうその手のエロい話にあまり興味が持てなくなっているからだ。 ボケッと夏澄のことを考えながら夜空を見上げる。 「お、なんだ蓮?お前ノリ悪いな」 「え?そう?」 「俺の童貞卒業話よりテストのほうが気になるのか?」 「そんなことないけど……」 「あ!まさかお前ぇ」 ショウゴはうざったらしく体を蓮に寄せてくる。 そしてじっとその顔を見つめた。 「な、なに?」 「お前……彼女できたんじゃないだろうな?」 「え?……なにそれ」 「『なにそれ』じゃないだろうが。お前もうセックスしてんじゃないだろうな?」 「な、なに言ってるんだよ」 「お、ちょっと動揺したな?」 「してないって!」 「おいショウゴやめろよ、困ってるだろうが」 「いやいや真実をはっきりさせたい、こいつの薄い反応……おかしいぜ。宗一なんて勃起してるのによ」 「え?」 宗一は自分が無意識に勃起してることに気づき、恥ずかし気に股間に手を当てて勃起を隠した。 「正直に言え、お前彼女いるだろ」 「いないって」 「お前はイケメンじゃないがブサイクでもないからな……いてもおかしくねぇ。誰だ?モエか?カリンか?」 「だから違うって」 「まさかれいこちゃんか?それともあゆみちゃんか?」 「もう、いい加減にしてよ」 「おい、そろそろ俺がキレるぞ」 タケルが低くして威嚇した。 その怒りを身に受けて、ショウゴはややたじろぐ。 「夏澄ちゃんじゃない?」 宗一がポツリと言った。 蓮はケツの穴につららを突っ込まれたような気分になる。 「な、なに言ってるの宗一くん」 「だって、今日の昼休み2人で勉強してた」 「あ……見てたの?」 「なんだそれは、おいどういうことだ蓮!」 宗一の言葉で勢いを取り戻したショウゴは蓮に顔を寄せてくる。 蓮は思わず顔を逸らした。 「蓮、はっきり言え!」 「だ、だから違うって」 「じゃあなんで2人きりで……教室にいたのか宗一?」 「うん」 「なんで2人きりで教室にいたんだ!?」 「べ、別に試験勉強してただけだよ。それで夏澄ちゃんが教えてくれたんだ……前から教えてもらってたし。宗一くん知ってるでしょ?雄大さんの車で俺言ったし」 「……そうだね」 「なんだそれだけか?もっとエロいこととかしてないのか?」 「してないよ!俺が勉強しなくちゃいけない理由を言ったら夏澄ちゃんが協力してくれるって言ってくれたんだ」 あまりにしおらしく蓮が言うので、ショウゴは信じてしまった。 同時に自分が期待した展開ではないので肩透かしを食らう。 「なんだよ、つまんね。まあお前に彼女がいなくてよかったよ。後輩のほうが先に彼女を作るなんてあってはならんことだからな」 「心配しないでよ、俺は誰とも付き合う気はないんだ」 「なに?嘘つくな。好きな女くらいいるだろ!言え!」 「ええ……」 「おい、あんまふざけんなよショウゴ」 「わ、わかったって」 タケルの怒りがまた発火しそうになったのでショウゴは後輩を穿つ矛を収める。 なんとなく会話が終わり、解散になりそうな流れになったとき宗一がボソッと呟いた。 「僕も……夏澄ちゃんに教えてもらおうかな」 「宗一くんが?宗一くん頭いいじゃん。必要ないよ」 「……そうかな?」 「そうだよ」 「確かに宗ちゃんには必要ないね。でも俺には必要だ!俺も夏澄ちゃんに勉強教えてもらおうかな」 「そ、それはやめてくれないかな?けっこうガチで俺教えてもらってるから……教えて貰うにしても次回のテストからにしてよ」 「まあそうだね。一緒に夜釣りできないと嫌だし。それに冗談だよ、俺が人に教えてもらってまで勉強すると思う?」 「あはは、思わない」 「そういうこと!テスト終わったら釣りしようね!」 「うん、もちろんだよ!」 蓮は仲間たちに嘘をついた。 今まで一緒に頑張ってきた仲間たちに……。 だが不思議と良心は痛まない。 自分の言動は正しいことだと思っているから。 誰も傷つけたりしない無害な嘘。 蓮は大和と一緒に笑った。 自分を睨みつける宗一の目にも気づかずに。
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