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蓮は緊張していた。
今日は夏澄に勉強を教えてもらう日で、彼は高坂家の部屋のドアの前に立っている。
団地の階段から下りてくる老婆が蓮に笑顔で頭を下げた。
「おはようございます」と言って蓮も頭を下げる。
下におりていく老婆を見送って、蓮は錆びた扉に向き直す。
緊張の原因は夏澄ではない、コーチの雄大だった。
彼は土日は仕事が休みなので家にいる。
蓮は二の足を踏んでいたがずっとこの場で突っ立ってるわけにもいかない。
覚悟を決めて、蓮はチャイムを押した。
掠れた電子音が響く。
落ち着かずに待っていると、ガチャリとドアが開かれた。
「おう、蓮か」
「お、おはようございます」
強面のコーチがにやりと笑って出迎えてくれた。
いきなり殴られるのではないのだろうか、なんて蓮は考えていたがもちろん意味もなく殴られるようなことはない。
丁寧にお辞儀をして、靴を脱ぎ部屋の中に入った。
リビングに足を運ぶと、すでに椅子に座って教科書や筆記用具を準備している夏澄がいた。
「おはよう、蓮くん」
「うん、おはよう」
「ちゃんと遅刻せずに来たんだ」
「遅刻なんてしないよ」
「いい心がけだね。さ、座って」
「わかった」
蓮は夏澄に向かい合うように座る。
夏澄は立ち上がって、冷蔵庫に向かう。
「お茶でいい?」
「うん」
コップにお茶を注いで戻ってきた夏澄は、蓮に手渡す。
蓮は「いただきます」と言ってお茶をひと口飲んだ。
渇いた喉が潤う。
「じゃあまずは理科からだね」
「えー?」
「なに?」
「一番苦手なのに……」
「だから最初にやるんでしょ」
「国語からにしようよ、古文は嫌だけど」
「甘えないの、早くノートと教科書を開きなさい」
「えー……まだ元素記号も覚えてないのに……」
「じゃあ今から覚えればいいでしょ」
「なんだ蓮、俺の娘に口答えか?」
雄大は蓮の隣に座って髪をわしゃわしゃと撫でた。
「いえそういうつもりじゃ……」
「元素記号なんて覚えんでいいぞ。俺は覚えなくても高校行けたからな」
「パパはあっち行ってて」
「いいじゃねえか、夏澄がどんなふうに教えるのか見たいしな」
「いいからあっち行ってて、蓮くん真剣なんだから」
「分かったよ、ちゃんと勉強しろよ」
雄大はソファーに座って、テレビを見始めた。
蓮を気遣ったりせず、いつも通りの音量にする。
「ごめんね、蓮くん」
「別にいいよ、さあ教えて」
「もちろんだよ、ビシバシ厳しくいくからね」
夏澄は宣言通り厳しく教え始めた。
中学の勉強なんてほとんどが暗記だが、それでも蓮には辛いものがある。
物覚えが悪く、集中力もあまりない。
腑抜けた顔を彼が見せるたびに、夏澄は叱責する。
平謝りする蓮は、ひいひい言いながらペンとマーカーを走らせる。
学習が一段落すると、夏澄は学んだことを空で言うよう求めてきた。
夏澄が問題を出して、蓮は頭をフル回転させてそれに答える。
途中詰まったり、間違えた答えを言うと徹底的に分からない部分を指導された。
2時間ほどのスパルタ教育に耐えきった蓮は、「ちょっと休憩……」と提案すると夏澄は渋々受け入れた。
2人でぬるくなったお茶を啜り、疲れた脳を回復させる。
「もっと休憩入れようよ~」
「何言ってるの?時間ないのに」
「休憩を適度にいれた方が学習の効率がいいってこの前テレビで言ってた」
「うるさいよ、黙って私の言う通りにして」
「ひどーい」
「確かにちょっときつくねぇか夏澄」
「パパも黙ってて」
「はぁ……こんなに勉強したのは初めてだよ。でもごめんね」
「何が?」
「こんなに夏澄ちゃんに教えてもらってるのに、全然頭に入んないよ。あはは、俺馬鹿だから」
不愉快を顔に貼り付けて、夏澄は蓮を睨みつける。
きょとんとした顔の蓮は、首を傾げた。
「蓮くんは馬鹿じゃない、それに最初から馬鹿な人なんていないよ」
「そ、そう?」
「頭が悪いのは努力しないから、それだけだよ。人の頭なんて大して変わりはしないんだから」
「そっか……」
「さあ、再開するよ。ペンを持って」
「なんだか元気が出たよ、優しいね夏澄ちゃん」
「事実を言ったまでだよ」
「それでも……優しいな」
「はいはい、おべんちゃらはいいから勉強するよ」
2人が勉強を再開しようとすると、雄大のスマホが音を出した。
彼はスマホを耳に当てて、電波の先にいる相手と通話をする。
「あ?今から?めんどくせぇな……なに!?終わったらみんなで飲み会だと!おお行くぞ。待ってろ!」
雄大はウキウキ気分でテレビを消した。
そして笑顔で夏澄を見る。
「俺ちょっと出てくるからよ、晩飯は先に食ってろ」
「ちょっとって、どうせ夜まで帰ってこないんでしょ?」
「ああ、まあな!蓮!ちゃんと勉強しろよ!それと夏澄には手を出すな!わかったな?」
「え?ええ、はい」
冗談めかしていった雄大は「がはは」と笑って準備をして部屋を出て行った。
先ほどまでの騒がしさはなく、嵐が去った夜のように部屋の中が静かになる。
「雄大さん、行っちゃったね」
「ごめんね馬鹿親で、迷惑だったでしょ?」
「ううん、そんなことない」
「じゃあやろうか。次は社会だよ」
「え?」
「なに?」
「えっと……」
夏澄の言葉が期待していたものとは違い、蓮は少し動揺する。
それを見透かした夏澄は鼻に皺を寄せて、目を細める。
高まり始めた蓮の性欲は、彼女のそばかすですら欲情の対象になった。
「……しないの?」
「しないよ。今日は勉強するんでしょ?」
「で、でも……」
「早く教科書開いて」
「……どうしてもダメなの?」
「なんでそう我慢できないの?」
「ごめん……」
性欲に振り回されて泣きそうになっている蓮が哀れで、夏澄の心が揺れ動いた。
大きなため息を吐いて、ゆっくりと立ち上がる。
「分かったよ、その調子じゃ勉強も頭に入らないだろうし」
「え?いいの?」
「でもセックスはしない。抜いてあげるからさっさと終わらせるよ」
「……ありがとう」
ズボンを脱ぎ、下着も脱ぎ始める蓮の手を夏澄はパチンと叩いた。
「早いよ、ここでやるわけないでしょ?」
「じゃあどこで?」
「トイレで十分でしょ」
2人はトイレに移動する。
蓮はせかせかした気持ちで、夏澄より先に個室の中に入った。
すでに陰部はギンギンで、下着から飛び出そうともがいている。
「じゃあパンツに脱いで便器に座って」
「わかったよ……」
蓮は手早く下着を脱いで、男の象徴をさらけ出した。
便座に座ると、夏澄はしゃがみこみ、片手で彼のイチモツを握る。
芳香剤のきつい匂いが蔓延するこの個室の中で、蓮は期待の眼差しを彼女に向けた。
冷たい手のひらで熱くなった陰茎が冷やされる。
「じゃあさっさと出してね、時間ないから」
夏澄は事務的に手を上下に動かした。
皮を被り、そして剥かれる。
その運動を繰り返す陰茎は快楽を蓮に与える。
「い、痛いかも」
「好きでしょ?」
「いや……でも、うん」
「早く出して」
「んっ……冷たいね」
「ほんとはするつもりなんか無かったもん」
「……舐めて」
「やだ」
ぶっきらぼうに言い放つ夏澄は何の感慨もなく蓮の陰茎を見つめる。
その冷めた目すら、今の蓮には興奮材料になった。
しごかれるたびに喘ぎ、そして呆気なく射精した。
どろっとした精液は夏澄に真っ直ぐに飛んで汚した。
「はぁはぁ……」
「勉強するよ」
夏澄は汚れた顔をトイレットペーパーで拭いた後、蓮のペニスも拭いた。
生臭い臭いが個室の中に充満する。
「ちょっと顔洗ってくるから、先にリビングに行ってて」
「……キスして」
「やだ」
「……怒ってるの?」
「さあ?どうでしょう」
「抱きしめていい……?」
「いちいち聞かなくていい」
蓮は下着も履かずに夏澄に抱き着いた。
染みついている精液の臭いが蓮の鼻をつく。
「ごめんね……」
「何が?」
「せっかく夏澄ちゃんが勉強教えてくれてたのに……わがままなこと言っちゃって」
「……別にいいよ」
「ねえ夏澄ちゃん」
「ん?」
「夏澄ちゃん、好きな人いるの?」
「いないよ」
「ほんと?」
「私のこと……好き?」
「……分からない」
「そっか」
「ごめんね」
「謝ることなんかないよ」
「……勉強教えて、俺頑張るから」
「うん、次セックスするときは優しくしてあげる」
「いじめるんじゃないの?」
「どっちがいい?」
「どっちも……」
「わがまま」
「ごめんね」
2人はクスクスと笑った。
洗面所に行き、手や顔を洗う。
1発抜いた男というものは余計な欲や煩悩、悪感情が消えるものだ。
蓮は机に座って、真剣に彼女と健全な時間を過ごした。
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