綺麗な部分だけ見てればいいのに

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午前中に終わった学校。 試験期間も終わり、部活もさっそく始まった。 ストレッチを済ませて、蓮たちは部活を始める。 軽くランニングをして、キャッチボールをした後にパスの練習だ。 蓮は大和とペアを組み、適当にダラダラとパスをする。 ほかの部員たちも笑ったり、ふざけたりで気が抜けているようだ。 その理由は1つしかない、監督もコーチもこの場にいないからである。 監督教師は会議や試験の採点や書類作成などの仕事があり、コーチも仕事で来られないのだ。 なので彼らは浮かれている、教師がいないことで部活も早い時間で切り上げるようにと言われている。 苦しい練習もなく、早く帰って自分たちの好きなことが出来る。 蓮だけではなく、みなの機嫌もよかった。 まともに練習する気などなく、各々好きなことをやっている。 「蓮ちゃん、部活終わったら釣り行こうぜ!」 「うん!久しぶりだね!」 「そういえば聞いた?ユウマくんの船のこと」 「うん、船に乗せて釣りさせてくれるんだよね」 「そうそう!俺も行くんだよ」 「ほんと?じゃあどっちが釣れるか勝負しようよ」 「受けて立つよ!また負けて泣かないでね」 「泣いたことなんてないよ!」 そんなことを話しながら練習をしていると大和がミスしてあらぬ方向にボールを飛ばした。 「ごめんごめん」と謝って大和はトコトコと歩きボールを拾いに行く。 その間暇なので蓮はまわりを見回してみた。 「ん?」 今まで気づかなかったが、女子のコートで何人かの男女が集まっている。 カリンにモエ、それに蓮が想いを寄せているアカネ。 男子はカイリとミナトとユウマだ。 そしてもう1人、その集団の中に夏澄がいた。 「なに話してるんだろう?」 「どうしたの蓮ちゃん」 ボールを拾って戻ってきた大和が蓮の近くに立つ。 「女子のコートだよ。ミナトくんたち何話してるんだろう」 「さあ、俺達には関係ないよ」 「でも気になるよ」 「どうして?」 「え?」 「……好きな子がいるの?」 「え!?別にいないけど」 「そっか、じゃあいいじゃん」 なんとなく大和は素っ気なく言った。 蓮はチラチラと彼女たちのほうを見る。 アカネを含めてみんな楽しそうに笑っている。 急に蓮は疎外感を覚えた、自分もあそこに混ざりたいと思ってしまう。 夏澄も手で口を押さえながら笑っているようだ。 「……なんだよ」 蓮は吐き捨てる。 アカネのことが気になってしょうがないのだ。 何度も想い人とは違う相手とやったというに、それでも彼はアカネを好きでいる。 チラ見ではなく、蓮が凝視していると夏澄が少しの時間こちらを振り向いた。 集団の中で見せる愛想笑いではなく、可憐な笑みに蓮は見えた。 その笑顔の意図が分からない、蓮はポリポリとこめかみを掻いて大和と練習を再開した。
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